あだなり【徒なり】 形容動詞(ナリ活用)

実が成らない・・・

意味

(1)不誠実だ・浮気だ

(2)はかない・頼りない

(3)いいかげんだ

(4)むだだ

ポイント

「あだ」は、もともと「花が咲いても実を結ばない様子」から、「不実なさま」を意味しました。

人間にあてはめると、「誠実でない」ことを示しますので、「浮気だ」「いいかげんだ」と訳す場合が多いです。

「実を結ばない」ということは、やがては消えることになるので、「はかない」「むだだ」などと訳すこともあります。

「あだ」の対義語のように使われることばは「まめ」です。こちらは、「誠実」「真面目」「自直」などの意味になります。

現代語で、「手を貸したことがあだになってしまった」なんていうと、「かえって悪い効果を生んだ」みたいな意味でとってたけど、そうじゃないんだな。

いえ、それはそういう意味です。

「あた」という名詞がありまして、「仇(敵)」と書きます。

「反対方向から当たってくるもの」というイメージで、「敵」「害」「危害」などの意味になります。

これが江戸時代に「あだ」と発音されたので、「あだとなる」「あだになる」とひらがなで書かれると、「徒」なのか「仇」なのかわからなくて混乱するんですね。

「徒となる」なら、「むだになる」という意味で、「仇となる」なら、「害になる」という意味です。

さきほど例に挙がりました「手を貸したことがあだになった」というのは、「かえってになって」ということなので、「仇」のほうの意味になりますね。

これは区別できないぞ!

中古・中世の文章で「あだ」という濁音で表記されていれば「徒」のほうの意味で取ってください。

男性のふるまいに対して、「あだなり」「あだに」という形容動詞として用いられていれば、「浮気だ」と訳すことが多いですね。

誠実でない行為に用いられていれば「いいかげんだ」「不誠実だ」としておきましょう。

「露」とか、「逢瀬」とか、対象が人間でない場合、「はかない」と訳すことが多くなります。

対義語のように用いられる「まめなり」も重要語なので、「あだなり ↔ まめなり」というセットで覚えておくといいですね。

例文

昔、男、ねむごろに、いかでと思ふ女ありけり。されどこの男を、あだなりと聞きて、つれなさのみまさりつついへる。(伊勢物語)

(訳)昔、男は、一途に、なんとかして(結婚したい)と思う女がいた。しかし(女は)この男を、浮気だ【不誠実だ・浮気者だ】と聞いて、冷淡な気持ちをつのらせながら言った【歌を詠んだ】。

会はでやみにし憂さを思ひ、あだなる契りをかこち、(徒然草)

(訳)会わないで終わったつらさを思い、はかない約束を嘆き、

御枕上に参らすべき祝ひの物にて侍る。あなかしこ、あだにな。(源氏物語)

(訳)お枕もとに差し上げなければならない祝いの物でございます。注意して、いいかげんに扱ってはいけません。