おぼつかなし【覚束なし】 形容詞(ク活用)

意味

① はっきりしない・ぼんやりしている

② 心配だ・気がかりだ

③ 不審だ・うたがわしい

④ 待ち遠しい

ポイント

「おぼ」は、「おぼろなり」「おぼめく」「朧月夜」などの「おぼ」と同じで、「ぼんやりしている・はっきりしない」ということを示しています。

そこに、状態を示す「つか」と、「なんとも〜である」という意味の「なし」がついて、一語の形容詞になっています。

「ふつつか」などの「つか」、「しどけなし」などの「なし」と同じですね。

ああ〜。

「無し」の「なし」じゃない・・・・パターンか。

はい。

「いはけなし」「はしたなし」「うしろめたなし」「むくつけなし」「しどけなし」などに共通する、接尾語の「なし」です。はなはだそういう状態であることを示しており、否定の意味はありません。

「おぼつかなし」の類義語に「こころもとなし」がありまして、こちらも「待ち遠しい」「不安だ」などと訳します。

ただ、ニュアンスにはちょっと違いがあります。

「おぼつかなし」のほうは、「対象がぼんやりしていてはっきり把握できないこと」に対する「漠然とした心配」を意味しています。

一方、「こころもとなし」のほうは、「理想」とか「期待」のような「イメージ」があり、「そうなるといいなあ/そうならなかったらいやだなあ」と「心がそわそわして落ち着かないさま」を意味します。

例文

山吹の清げに、藤のおぼつかなきさましたる、すべて、思ひすてがたきこと多し。(徒然草)

(訳)山吹の花がきれいに(咲き)、藤の花がぼんやりとはっきりしない様子をしていること、すべて、見捨てがたいことばかりである。

若宮の、いとおぼつかなく露けきなかに過ぐし給ふも、(源氏物語)

(訳)若宮【光源氏】が、たいそう気がかりなまま、涙がちのうちにお過ごしになるのも、

都のおとづれいつしかとおぼつかなきほどに、(十六夜日記)

(訳)都からの便りはいつになったらと【便りが早く来てほしいと】、待ち遠しく思っているころに、