世界の男、あてなるも、賤しきも、いかでこのかぐや姫を得てしがな見てしがなと、音に聞きめでて惑ふ。(竹取物語)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

世界のをのこ、あてなるも、賤しきも、いかでこのかぐや姫を得てしがな見てしがなと、音に聞きめでて惑ふ。そのあたりの垣にも、家のにも、をる人だにたはやすく見るまじきものを、夜は安きいも寝ず闇の夜にいでても、穴をくじり、垣間見、惑ひあへり。さる時よりなむ、「よばひ」とはいひける。

竹取物語

現代語訳

世の中の男は、身分の高い人も身分の低い人も、どうにかしてこのかぐや姫を妻にしたいものだなあ、結婚したいものだなあと、うわさに聞き心ひかれて思い乱れる。そのあたりの垣根にも、家の門(の近く)にも、そこにいる人たちでさえ簡単に見ることができないのに、夜は安眠もせず、闇夜に出てきて、(垣根に)穴を空けて、垣間見て、うろうろしている。その時から、(こういう行為を)「よばひ」と言った。

ポイント

あてなり 形容動詞(ナリ活用)

「あてなる」は、形容動詞「あてなり」の連体形です。

「貴」という漢字が示すとおり、「身分が高い」「高貴だ」「上品だ」などと訳します。

ここでは、直後の「いやし」と対比の関係になりますので、「身分が高い」と訳すのがいいですね。

いやし 形容詞(シク活用)

「いやしき」は、形容詞「いやし・いやし」の連体形です。

「身分が低い」「下品だ」などと訳します。

直前の「貴なり」との対比で、「身分が低い」と訳しましょう。

いかで 副詞

「いかで」は副詞です。

疑問や反語としては、「どうして」「どうやって」と訳します。

願望の文脈であれば「なんとかして」と訳しましょう。

「む」「まほし」「じ」「ばや」「にしがな」「てしがな」といった語があれば、「願望」の文脈と考えましょう。

ここでは「てしがな」があるので、「願望」の文脈になることから、「いかで」は「なんとかして」と訳します。

てしがな 終助詞

「てしがな」は終助詞です。

完了「つ」+願望「しか」+詠嘆「な」が一語化して「てしがな」になりました。

「~したいものだなあ」「~できたないいのになあ」などと訳します。

完了「ぬ」+願望「しか」+詠嘆「な」が一語化した「にしがな」という終助詞もあります。

訳は同じです。

めづ 動詞(ダ行下二段活用)

「めで」は、動詞「づ」の連用形です。

「かわいがる」「ほめる」「心ひかれる」などと訳します。

ここでは、うわさに聞いた男たちが「かぐや姫」を見たがっている場面ですので、「心ひかれる」などと訳しましょう。

まどふ 動詞(ハ行四段活用)

「惑ふ」は、動詞「まどふ」の終止形です。

ここでは、「心が乱れる」「思い乱れる」などと訳します。

「惑星」の「惑」という字のとおり、「心」がくるくる動き回っていることを意味しています。

「心が落ち着いていない」という意味合いであることから、「思い乱れる」「迷う」「あわてる」などと訳します。