あやにくなり 形容動詞(ナリ活用)

そうじゃなきゃよかった

意味

(1)都合が悪い・間が悪い・あいにくだ

(2)厳しい・意地が悪い・無慈悲だ

ポイント

「あや」+「にく」+「なり」で一語化しました。

感動詞「あや」は、驚きをこめて「ああ」ということで、「憎」は、「意に反する」ということです。

「にくし」という形容詞がそうであるように、「あやにくなり」の「にく」にも、「憎悪」の意味はありません。「予想に反して」「期待と違って」くらいに考えておくのがベストです。

ああ~もう思ってたのと違う!

って感じなんだな。

面白いのは、「咄」の字をあてている用例があることです。

「咄」は、「口」から音が「出る」ということで、舌打ちのような音を意味していると言われます。

「ちぇっ!」ってことか!

「ちぇ」っと「舌打ちしたくなる状況」を表しているんでしょうね。

「あやにくなり」は、「あや」にけっこうポイントがあって、「ここはこうなるだろう」という大方の予想を裏切って、ちょっと嫌なことが起こるときによく使用されます。だからこそ「あや」という「驚き」がついているのですね。

そのため、「あやにくなり」があるときは、前提となっている「期待」や「予想」がどういうものなのかを意識して訳す必要があります。

たとえば、「雨が降ってきた」ことを「あやにくなり」と言うのであれば、「狩りに行く日だった」などといった「雨が降ってほしくない」という「期待」が背景にあります。

あるいは、ある人物の態度を「あやにくなり」と言うのであれば、「まあ普通はこのくらいだろうな」という「予測」に反して、少し悪い方面にはみ出している場合が多いです。そのことから、「意地悪だ」とか「厳しい」といった訳になります。

「ばか」って言うくらいだろうなって周囲が予想していたら、「大バカ者のこんこんちき!」と言うような感じかな。

まさに、「あやにくなり」ですね。

「あや~!」と驚いて、「ちょっとにくらしいね」と引いちゃうイメージです。

これが現代語の「あいにく」になったのか。

そうですね。

いまでも、「あいにくですがその日は行くことができません」などと言いますね。

「期待を裏切って悪いけど……」といったような意味ですね。

例文

さらに知らぬ由を申ししに、あやにくに強いたまひしこと。(枕草子)

(訳)まったく知らないことを申し上げたが、意地悪く(話すよう)無理強いなさったことだ。

「これ以上聞かれないこと」を望んでいたのに、その期待に反して、(中将が)「話せ」と強いてきたという文脈です。

こういうときは、「意地が悪い」「厳しい」などという訳し方をします。

常識的な展開に逆らって「にくいこと」をするわけなので、「意地が悪い」と言えますね。

かれは、人の許しきこえざりしに、御志あやにくなりしぞかし。(源氏物語)

(訳)あちら(桐壺の更衣)は、(帝からのご寵愛を)人々がお許し申し上げなかったのに、(帝の)ご愛情はあいにくであったのだよ。

「あいにく」という現代語は、「予想に反して」「期待に反して」ということです。

試験では「あいにく」と書いてしまって問題ありませんが、「帝のご愛情はその意に反していたのだったよ」と訳すこともできます。

あるいは、意味内容を解釈して、「帝のご愛情ははなはだしかったのだよ」などと訳すこともできます。周囲の人々は、「桐壺」への愛情を「少し」にしてほしい、と望んでいるのに、実際はその逆で「深い」ものであったという文意になります。