
ひともをし ひともうらめし あぢきなく よをおもふゆゑに ものおもふみは
和歌 (百人一首99)
人もをし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに もの思ふ身は
後鳥羽院 『続後撰集』
歌意
人がいとおしいと思い、一方では人が恨めしいと思う。つまらないとこの世を思うために、悩みわずらう私の身は。
作者

作者は「後鳥羽院」です。


承久の乱に敗れて、隠岐に流されてしまったのだな。

この歌はその十年近く前のものですね。
鎌倉との関係が悪くなっていくときですから、いろいろストレスがたまっていたでしょうね。

ああ~。
だから、世の中つまんねえなあ、って感じの歌なんだね。

世の中に対して「わけがわかんねえなあ」って鬱屈した思いを抱えているからこそ、人がいとしくなったり、人が恨めしくなったり、様々な感情を行き来するんでしょうね。
ポイント
人もをし

「をし」は「惜し」「愛し」であり、「残念だ」「いとしい」などと訳します。
ここでは、「恨めし」との対比で考えると、「いとしい」の意味がいいですね。
人も恨めし

「恨めし」は、現代語でも用いるので、「うらめしい」と訳せばOKです。
あぢきなく

形容詞「あぢきなし」の連用形です。
「無道」と書いて「アヂキナシ・アヅキナシ」と読むことから、「あぢき」は「道理」などのことだと解することができます。
道理が「ない」ということから、「あぢきなし」は、「思うようにいかない」「どうにもならない」という意味になります。
心情語として訳すなら「おもしろくない」「つまらない」などになりますね。
世を思ふゆゑに

「あぢきなく」が係っているので、「おもしろくない・つまらないと世の中を思っているから」という意味になりますね。
もの思ふ身は

「もの思ふ」というと、「深々と何かを思っている」ことを意味しがちです。
恋の歌であれば、相手のことを深く思っているということになりますが、この歌は「世の中」に対して深々と思っているので、「悩む」とか「思いわずらう」とか「心配する」といったニュアンスになります。
歌の倒置を解除して並べると、
この世の中をおもしろくない、つまらないと思うから、思い悩んでしまう私の身は、人をいとしいと思ったり、逆にうらめしいと思ったりするんだね
という感じになりますね。