家居のつきづきしく、あらまほしきこそ、(徒然草)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

家居のつきづきしく、あらまほしきこそ仮の宿りとは思へど、興あるものなれ。よき人の、のどやかに住みなしたる所は、さし入りたる月の色も、ひときはしみじみと見ゆるぞかし。今めかしく、きららかならねど、木立ものりて、わざとならぬ庭の草も心あるさまに、簀子すのこ透垣すいがいのたよりをかしく、うちある調度も昔おぼえてやすらかなるこそ、心にくしと見ゆれ。

徒然草

現代語訳(口語訳)

住まいが(住む人に)似つかわしく、望ましい【理想的である】ことは(現世の)仮の住まいとは思うけれど、趣き深いものである。身分が高く教養がある人が、おだやかにして住んでいる所は、差し込んでいる月の光も、いっそうしみじみと見えるものだよ。現代風でなく、きらびやかでないが、木立がなんとなく古びて、作為的ではない庭の草も趣がある様子で、簀子や、透垣の配置も趣深く、置いてある道具も古風な感じがして落ち着きがあるのは、奥ゆかしく思われる。

ポイント

つきづきし 形容詞(シク活用)

「つきづきしく」は、形容詞「つきづきし」の連用形です。

「何かと何か」が「ちょうどよくくっついている」ということであり、「調和している」「似つかわしい」「似合っている」などと訳します。

ここでは、「住まい」と「住人」が「似つかわしい」状態であるのだと考えられます。

「住居」の「部分」と「部分」(たとえば、建物と庭など)が、それぞれ「調和している」と考えることもできますが、続く文脈の「よき人」が「のどやかに住みなしたる所」というところをヒントにすると、やはり「住居」と「住人」が調和していると考えるのが自然です。

あらまほし 形容詞(シク活用)

「あらまほしき」は、形容詞「あらまほし」の連体形です。

もともとは「あり」+「まほし」であり、「あってほしい(存在してほしい)」という連語ですが、「こうあるべきだ」という「ほめことば」として使用する場合、対象の状態や性質を説明している使い方になりますので、「一語の形容詞」として考えます。

『徒然草』に出てくる「あらまほし」は、ほとんどが「形容詞」のほうです。