きこしめす【聞こし召す】 動詞(サ行四段活用)

発言をお受け入れになる

意味

(1)お聞きになる *「聞く」の尊敬語

(2)お聞き入れになる・ご承知なさる *「聞き入る」の尊敬語

(3)召し上がる *「食ふ」「飲む」の尊敬語

(4)お治めになる・なさる *「治む」「行ふ」などの尊敬語(主に上代の用法)

ポイント

「聞こす」に「召す」がついて一語化しました。主に天皇などの最高ランクの人の行為に用いるので、「最高敬語」だと言えます。

文法的に考えれば「聞こす」は「聞く」+尊敬の「す」であり、「お聞きになる」という意味になります。それを「召す」によって一段階高めているのが「聞こし召す」だと言えます。

ただ、「聞こす」は主に「おっしゃる」の意味で用いられていたことから、「これは『聞く』+使役の『す』であり、『聞かせる』という行為を指していた」とする説もあります。「相手に対して発言する」ということですね。「召す」は「お呼びになる」ということですから、「聞こし・召す」は、「聞かせる行為を・お受け入れになる」という構造だと言うこともできます。

ああ~。

「発言」を「呼び寄せる」ってことなのかな。

文法構造で考えると前者の構造なのですが、意味的に考えると後者の構造のほうがしっくりきますね。

いずれにしても、「聞こし召す」の場合には、天皇クラスの高位の者が下位の者からの「発言」「申し出」「お願い」などを「近くに呼ぶ」というイメージになります。

「飲み物」や「食べ物」を近くに呼ぶということにもつながるので、飲食の場面では「召し上がる」と訳すことになります。

「帝」に何か相談して、「帝」が「いいよ」って言えば政治的な事柄も進んでいくから、「お治めする」とか「(~を)なさる」っていう意味にもなるのかな。

そうかもしれません。

ただ、(4)の使い方は主に上代の用法なんですよね。

上代では、「めす(見す)」という動詞もありまして、それには「統治する」という意味もありました。もしかするとそちらから来た意味かもしれませんね。

例文

右近の内侍召して、「かくなむ。」と仰せらるれば、笑ひののしるを、上にも聞こしめして渡りおはしましたり。(枕草子)

(訳)(中宮様が)右近の内侍をお呼びになって、「こういうことだ【翁丸かと呼んだら犬が返事をした】。」とおっしゃったところ、(みなが)声高に大笑いするのを、天皇もお聞きになって(こちらへ)いらっしゃった。

ここにせちに申さむことは、きこしめさぬやうあらざらまし。(源氏物語)

(訳)こちらが切実にお願い申し上げるようなことは、(帝が)お聞き入れにならないことはないであろうに。

薬の壺に御文そへて参らす。広げて御覧じて、いとあはれがらせたまひて、ものも聞こしめさず。(竹取物語)

(訳)(中将は)薬の壺に(かぐや姫からの)お手紙を添えて(帝に)差し上げる。(帝は手紙を)広げてご覧になって、たいそうしみじみと悲しみなさって、何も召し上がらない。

やすみしし わご大君の きこしめす 天の下に 国はしも さはにあれども (万葉集)

(訳)我が天皇のお治めになる天の下に国はたくさんあるけれども、

(4)の意味は主に上代の用法です。