くすし(くし)【奇し】 形容詞(シク活用)

「薬(くすり)」と同じように、霊妙であること。

意味

(1)神秘的だ・不思議だ

(2)現実ばなれしている・奇異である

ポイント

「クス」は「薬(くすり)」と同根のことばで、「神秘的で霊妙なようす」をあらわします。

「神」の字を「くすし」と訓じている例もあります。

形容詞としては上代での使用が多く、中古では数が減りましたが、「くすし」から派生した「くすしがる」という動詞や、「くし」から派生した「くしくも」という表現で残っています。

ああ~。

「奇しくも」は「不思議なことに」っていう意味で今でも使うよね。

そうですね。

中古では「くすしがる」という動詞は、そのまま「神妙にする」と意味で用います。また、「神妙すぎる」という意味合いで、「生真面目すぎる」と訳すこともあります。

「神妙な顔をする」「生真面目なふるまいをする」などと、ちょっとつけ足して訳すこともありますね。

例文

燃ゆる火を雪もて消ち 降る雪を火もて消ちつつ 言ひも得ず 名付けも知らず くすしくもいます神かも (万葉集)

(訳)(富士山は)燃える火を雪で消し、降る雪を火で消しながら、言い表すこともできず、名付けもわからず、神秘的で【不思議で】いらっしゃる神であることよ。

いたく物忌み、くすしきは人といはず。(宇治拾遺物語)

(訳)たいそう物忌みをし、生真面目な人は(ふつうの)人とは言わない。

中納言の君の、忌日とてくすしがり行ひたまひしを、(枕草子)

(訳)中納言の君が、(藤原道隆の)命日といって神妙に【神妙な顔つきで】勤行なさったのを、