〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。
はし舟とつけて、いみじう小さきに乗りて漕ぎありく、つとめてなど、いとあはれなり。あと白浪は、まことにこそ消えもて行け。よろしき人は、なほ乗りてありくまじきことこそおぼゆれ。徒歩路もまたおそろしかなれど、それはいかにもいかにも地に着きたれば、いとたのもし。
枕草子
現代語訳
はし舟【端舟】と名付けて、たいそう小さい舟に乗って漕ぎ回る、その早朝の様子など、たいそうしみじみとした趣きがある。「あとの白浪」は、本当にすぐに消えていってしまう。それなりの身分の人は、やはり(舟に)乗ってあちこち動き回るべきではないと思われる。徒歩の陸路もまた恐ろしいものであるが、それは何といっても地に足が着いているので、たいそう安心なものだ。
ポイント
なほ 副詞
「なほ」は、副詞です。
「依然として」「やはり・それでもやはり」「いよいよ・ますます・さらに」などの意味になります。
「猶(なほ)」は、「物事が変わらずに持続する様子」を意味する副詞です。
基本的には「依然として」の意味になりますが、「いろいろ考えたうえで、結局は前と変わらずに」という意味合いで「やはり」と訳すことが多いです。「それでもやはり」と訳すこともあります。
あるいは、「もとの状態が持続する様子が、いっそう勢いづいているように感じられる場合」には、「いよいよ・ますます・さらに」などと訳すこともあります。
ありく 動詞(カ行四段活用)
「ありく」は、動詞「歩く」の終止形です。
「ありく」は、「歩く」と書きますけれども、現在の「徒歩で移動する」という意味とは異なります。
古文では、「動きまわる」「あちこち移動する」という意味合いになります。
まじ 助動詞
「まじき」は、助動詞「まじ」の連体形です。
助動詞「べし」の反対になるのが、助動詞「まじ」だと考えましょう。
つまり、「推量」「意志」「可能」「当然」「命令」「適当」などを打ち消すのが「まじ」の意味になります。
おぼゆ 動詞(ヤ行下二段活用)
「おぼゆれ」は、動詞「おぼゆ」の已然形です。係助詞「こそ」があるので、結びが「おぼゆれ」になっています。
「思ふ」に、上代の自発の助動詞「ゆ」がついて一語化した動詞なので、「思われる」「感じられる」などと訳します。