とみの物縫ふに、かしこう縫ひつと思ふに、針をひきぬきつれば、はやくしりをむすばざりけり。(枕草子)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

ねたきもの。人のもとにこれよりやるも、人の返事かへりごとも、書きてやりつるのち、文字一つ二つ思ひなほしたる。とみの物縫ふに、かしこう縫ひつと思ふに、針をひきぬきつれば、はやくしりをむすばざりけり。また、かへさまに縫ひたるもねたし。

枕草子

現代語訳

いまいましいもの。こちらから送る手紙でも、人が言ってきている手紙の返事でも、書いて送った後に、文字の一つ二つは考え直している。急ぎの物を縫うときに、巧みに(上手に)縫ったと思うのに、針を引き抜いたところ、なんと端を結ばなかったよ。また、裏返しに縫ったのもいまいましい。

ポイント

とみなり 形容動詞(ナリ活用)

「とみ」は、形容動詞「とみなり」の語幹用法です。

「急」という意味です。

「頓なり」の「頓」が「急」という意味を持っています。

ここでは、形容動詞の語幹用法です。

かしこし 形容詞(ク活用)

「かしこう」は、形容詞「かしこし」の連用形「かしこく」です。「かしこう」となっているのはウ音便です。

もともとは「人智を超えた存在や現象」を「恐れ多い」と形容することばですが、いずれ、人間の知性や技能に対しても用いるようになりました。

その場合、「賢い」「すぐれている」「巧みだ」などと訳します。

ここでは「縫ふ」という技術に対して用いているので、「巧みだ(上手だ)」と訳すのがいいですね。

はやく 副詞

「はやく」は、副詞です。「はやう」となっているのはウ音便です。

形容詞「はやし」の連用形「はやく」が副詞化したものです。

「かつて」「すでに」「もともと」などと訳します。

実際には、「はやう」となっている用例が多いです。

詠嘆の「けり」とセットで用いられると、「今気づいたけどずっと前からそうだったのか!」という感情が強調されていると考えるので、「実は~だったよ」「なんと~だったよ」といったように、驚きを伴ったかたちで訳せるとよいです。

けり 助動詞

「けり」は、助動詞「けり」の終止形です。

「はやく~けり」「はやう~けり」「はや~けり」のセットの場合、「詠嘆」と判断しましょう。

「けり」は、「別次元から客観的に過去を振り返っている」ことを示す助動詞です。

そのため、多くの場合、「自分が体験したわけではない過去」を意味します。

この例文のように、「自分が体験した過去」に用いることもありますが、その場合でも、「別次元から客観的に過去を振り返っている」という根本は同じです。つまり、「それが起きたときには認知していなかった過去にあとになって気づいた」という意味合いで使用されている「けり」なのですね。

この「けり」は一般的に「詠嘆」に分類されますが、俗に「気づきのけり」などと言われることもあります。

 

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◆問題演習
減点されない古文