〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。
二条の后の、まだ帝にも仕うまつり給はで、ただ人にておはしましける時のことなり。
伊勢物語
現代語訳
二条の后【藤原高子】が、まだ帝【清和天皇】にもお仕え申し上げなさらず、臣下【普通の身分】でいらっしゃった時のことである。
ポイント
ただ人 名詞
「ただ」は「普通」という意味であり、「ただ人」は「普通の人」ということです。
「ただ人ならず」などというと、「普通の人ではない」ということになるのですが、それはたいてい「いい意味」です。そのため、「高貴な人」とか、「神聖な人」などと訳すこともあります。
さて、「ただ人ならず」が「高貴な人」であるならば、「ただ人」は、「位階が高くない人」と解釈することができます。そのことから、「臣下」「普通の身分の人」と訳すことがあります。

この例文では、主語が「二条后」とあり、さらには、「まだ天皇にお仕えしていらっしゃらない時」とありますね。
ということは、「后」という位になる前の出来事だと考えられます。
そのことから、「臣下」とか「普通の身分」などと訳せるといいですね。
+α なべてならず
「ただ人ならず」に近い表現として、「なべてならぬ人」というのもあります。

「なべて」は「並べて」であり、「同水準で並んでいる」ということから、「一般的・普通」という意味になります。
「なべてならぬ人」は、「普通」を否定しているので、「並々でない人」という意味になります。基本的には「良いほうの意味」で「普通でない」ということなので、「立派な人」「高貴な人」などと訳すことになるのですね。
おはします 動詞(尊敬語)
「おはしましける」は、「おはします」+「けり」です。
「おはします」は尊敬語であり、「いらっしゃる」と訳します。
同じような使い方をする動詞に「おはす」があります。
なり 助動詞
「なり」は「断定」の助動詞です。「である」と訳しましょう。