ゆくりなし 形容詞(ク活用)

いきなりのことで挙動不審

意味

(1)突然だ・不意だ・思いがけない

(2)不用意だ・軽はずみだ

ポイント

「ゆく」擬態語で、「ゆくゆく」「ゆくらゆくら」「ゆくりか」など、いくつかの語になっていきました。これらは「動揺する様子」「安定しない様子」「揺れ動く様子」などを示しています。

「ゆくりなし」は、そういった「動揺」「不安定」を導くような「突然」「不意」の出来事に用いられるようになりました。

「ゆくりなし」の「なし」は、「無」ではなくて、「はなはだしくそのようである」という意味の接尾語です。

でたな!

この「無し」ではない「なし」が!

はい。

いはけなし
はしたなし
おぼつかなし

などの「なし」です。

てっきり、「ゆっくり」「ではない」ということで「ゆくりなし(=突然だ)」なのかと思っていたぞ。

残念ながら違うようです。

ゆらゆらする(=動揺する)ほど、その出来事が「突然である」「不意である」ということです。

「も」を入れて「ゆくりもなし」とすることもあります。

それから、「ゆくりかなり」という形容動詞もありまして、同じ意味になります。

例文

かく言ひて、眺めつつ来る間に、ゆくりなく風吹きて、(土佐日記)

(訳)このように言って、(景色を)眺めながら来るうちに、不意に【思いがけず】風が吹いて、

ゆくりなく今も見が欲し秋萩のしなひにあらむ妹が姿を (万葉集)

(訳)不意に今も見たいと思う 秋萩のようにしなやかであろう恋人の姿を

あたら思ひやり深うものし給ふ人のゆくりなくかやうなることを、折々混ぜたまふを、人もあやしと見るらむかし。(源氏物語)

(訳)惜しいことに、思いやりが深くていらっしゃる人が、軽はずみに【不用意に】このようなことを、時々混ぜてしなさるのを、人も変だと見るだろうよ。