手詰まり・・・
意味
(1)どうしようもない・なすべき方法がない
(2)途方に暮れる・困る・つらい・苦しい・せつない
ポイント
「術(すべ)」は「すべ」は「す(何かをする)」+「へ(方向を示す)」がもととなった語と言われていまして、「手段・方法・手だて」などを示します。
それが「無し」なので、「手段がない・方法がない」ということになり、訳語としては「どうしようもない」とすることが多いですね。
その「どうしようもない状況」に接した際の「人のふるまいや心情」を示す場合、「途方に暮れる」「困る」「つらい」「苦しい」などと訳すこともあります。
「すべもなし」とか「すべ」と「なし」の間に何か入っていることもあるよね。
上代では、「すべもなし」「すべのなさ」とか、分割されているケースが多くて、中古から「すべなし」が増えてくる感じですね。
そういえば「術なし(ずちなし)」っていうのもなかったっけ?
あります。ほぼ同じ意味ですね。
「すべなし」のほうが古い語なのですが、「すべ」にあてた漢語「術」の音読みが「ずち」なので、「術無し」を「ずちなし」と読むこともありました。
「ずちなし」のほうは、いわゆる漢語読みなので、基本的に男性の会話文にしか出てきません。
ところで、「すべなし」って、「なすすべがない」って訳しちゃいけないの?
十分、現代語として通用するよね。
大丈夫です。
みなさんの授業を担当している古文の先生がまともな人なら〇です。
ま、まともでないケースとは・・・(ゴクリ)
「授業で『どうしようもない』と教えたから、授業通りでないと認めない」という謎理論をもつ先生がまれにおります。
あるいは、「『術なし』を『なすすべがない』と訳したら、『すべ』を読んだだけでしょ」とかわけのわからないことを言ってきて、言いがかりのように×をつけてくる先生もまれに発生します。
そういう人に出会ってしまったら、他の国語の先生に話を聞いてもらうとか、身の守り方が必要になります。
しかし、その謎理論の先生の立場が強かったりとすると、点を奪い返す手段がありません。まさに「すべなし」です。
それは途方に暮れるし、困るしつらい!
例文
清水の観音を念じたてまつりても、すべなく思ひまどふ。(源氏物語)
(訳)(惟光は、ご利益があるという)清水の観音をお祈り申し上げても、どうしようもなくあれこれ思いなやむ。
かくばかり すべなきものか 世の中の道 (万葉集)
(訳)これほどに、どうしようもないものなのか。この世の中の道は【生きていく道のりは】。
雪降る夜は術もなく 寒くしあれば (万葉集)
(訳)雪が降る夜はどうしようもなく寒いので
「すべもなし」「すべをなみ」「すべのなさ」といったように、「すべ」と「なし」が強くは結合していない例も多いです。特に上代はそうですね。
中古になると、「すべなし」でひとつの語として定着してきますが、「すべもなく」という表現はまあまあ出てきます。
現代でも「すべもなく」って言うもんね。