うたて 副詞

勝手に変わっていっていやだね

意味

(1)なぜだかしきりに・どういうわけかいっそう・ますますひどく

(2)異様に・あやしく・気味悪く

(3)いやに(いやなことに)・不快に(不快なことに)・情けなく

ポイント

「転(うたた)」と同根の語です。

「うたた」は「状態の変化それ自体」を示すことばですが、「うたて」は、「量や程度の変化」を示しやすく、かつ「その変化を自分の意志で止められない」という気持ちを含んでいるといえます。

もとは(1)の意味ですが、その場合にも、「勝手に物事が変化していく」ことを不思議がって使うケースが多いです。その変化が尋常でない場合には(2)のように訳すこともあります。

中古になると、そういった現象に「嘆き」の気持ちを含んだ(3)の使い方が主流になってきます。

ああ~。

それで「形容詞っぽく」なっていくんだね。

そうですね。

副詞として(3)の意味で使う場合、「うたて思ふ(不快に思う)」「うたて覚ゆ(いやに感じる)」といったように、「思ふ」「おぼゆ」につくケースが多いです。

一方で、(3)の意味として、「あなうたて」とか「うたての〈体言〉」という表現も多く用いられていきます。この場合、分類上「副詞」というよりは、「形容詞・形容動詞の語幹用法」とみなされます。

このように、形容詞「うたてし」や、形容動詞「うたてなり」は、副詞から転成していく過程において、語幹だけで使用される期間が長かったことばだと言えます。

例文

三日月の さやにも見えず 雲隠り 見まくそ欲しき うたてこのころ (万葉集)

(訳)三日月がはっきり見えず雲に隠れている(ようにあなたに会えないでいる)、なぜだかしきりにこのころは(あなたに会いたいと思う)。

それも、まだ繭にこもりたるはをかし。ひろごりたるはうたてぞ見ゆる。(枕草子)

(訳)それ【卯の花】も、まだ繭のように小さくこもっているものは風情がある。(穂先が)広がっているものは異様に見える。

物に襲はるる心地して、驚き給へれば、灯も消えにけり。うたておぼさるれば、太刀を引き抜きて、うち置き給ひて、右近を起こし給ふ。

物の怪に襲われるような気持ちがして、目をお覚ましになると、灯火も消えてしまった。気味悪くお思いになったので、太刀を引き抜いて、置きなさって、右近を起こしなさる。

「しかしかのことはあなかしこ、あとのため忌むなることぞ」など言へるこそ、かばかりのなかに何かは、と人の心はなほうたて覚ゆれ。(徒然草)

(訳)(四十九日の忌明けに際し)「これこれのことは、ああ畏れ多い(縁起でもない)、あと(に生きる人)のため、避けることである」などと言っているのは、これほどの(悲しみの)中でどうして(そんなことを言うのか)と、人の心はやはり情けなく【いやに】思われる。

あなうたて、この人のたをやかならましかば。(源氏物語)

(訳)ああいやだ、この人(の態度)がものやわらかであったならよいのに。

「あなうたて」の使い方は、分類上は「感動詞+形容詞の語幹用法」になります。