御死にもやしたまひけむ、え見つけたてまつらずなりぬ。(竹取物語)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

かくてこの皇子は、「一生の恥、これに過ぐるはあらじ。女を得ずなりぬるのみにあらず、天下の人の、見思はむことのはづかしきこと」とのたまひて、ただ一所、深き山へ入りたまひぬ。宮司、さぶらふ人々、みな手を分ちて求めたてまつれども、御死にもやしたまひけむ、え見つけたてまつらずなりぬ。皇子の、御供に隠したまはむとて、年頃見えたまはざりけるなりけり。これをなむ、「たまさかに(たまさかる)」とはいひはじめける。

竹取物語

現代語訳

こうしてこの皇子は、「一生の恥で、これを上回るものはないだろう。女【かぐや姫】を手に入れなかっただけでなく、世間の人が、(自分のことを)見て思うようなことが恥ずかしい」とおっしゃって、たった一人で、深い山へとお入りになった。屋敷の執事や、仕えている人々が、みんなで手分けして【皇子の行方を】お探し申し上げたが、お亡くなりにでもなられたのだろうか、お見つけ申し上げることができなかった。皇子が、ご家来たち(の前)から(姿を)お隠しになろうと思って、何年もの間姿をお見せにならなかったのであるのだよ。(それから)こういった(突然の失踪の)ことを「たまさかに(たまさかる)」と言い始めたのだ。

ポイント

「や」は係助詞です。係り結びの法則により、ここでは「けむ」が連体形になります。

「や」は、「疑問」「反語」の意味になります。

わからないことがあり、「単純に疑問を感じている」のであれば「疑問」です。

一方で、表現上は疑問文であっても、裏では「表現と反対になる主張」をしているのであれば「反語」です。

ここでは、シンプルに疑問を持っているので、「疑問」になります。

す 動詞(サ行変格活用)

「し」は、動詞「す」の連用形です。

「御死にもす」で、「お亡くなりになる」と訳します。

単純に「行く」と言えばいいところを、「行きもす」と述べたり、「食ふ」と言えばいいところを「食ひもす」と述べたりすることは、古文の世界ではけっこうあります。

あるいは、「行きも行く」とか「食ひに食ふ」といったように、2回重ねることもありますね。

強調の意図であったり、語調を整えるためであったりします。

訳は単純に「行く」「食べる」としても問題ありませんが、「どんどん行く」とか「ひたすら食べる」などといったように、何らかの強調句をつけるほうが、表現のニュアンスを拾っていると言えます。

ここも、「お亡くなりにでもなられたのだろうか」といったように、ちょっとした「付け加え」をしていますが、この「でも」はなくても採点に影響はありません。

たまふ 敬語動詞(ハ行四段活用)

「たまひ」は、敬語動詞「たまふ」の連用形です。四段活用の「たまふ」は「尊敬語」です。

ここでは、動詞「す」についている補助動詞ですので、「お~になる」「~なさる」「~ていらっしゃる」などと訳します。

けむ 助動詞(過去推量)

「けむ」は、助動詞「けむ」の連体形です。係助詞「や」があることにより、「結び」として連体形になっています。

「けむ」は、「過去推量(~ただろう)」「過去の原因推量(~というわけなのだろう)」「過去伝聞(~たとかいう)」などの意味になります。

え 副詞

「え」は、副詞です。下に「ず」「じ」「まじ」「で」などの打消表現を伴い、「~できない」と訳します。

呼応の副詞、または陳述の副詞などと言います。

たてまつる 敬語動詞(ラ行四段活用)

「たてまつら」は、敬語動詞「たてまつる」の未然形です。「謙譲語」です。

ここでは補助動詞なので、「お~申し上げる」「~てさしあげる」などと訳します。

直後に助動詞「ず」があるので、未然形になっているのですね。

なる 動詞(ラ行四段活用)

「なり」は、動詞「なる」の連用形です。

古文に「なら」「なり」「なる」「なれ」とかがあると、何の品詞なのか区別できなくて混乱するんだけど。

はい。

① 断定の助動詞
② 伝聞・推定の助動詞
③ 形容動詞の語尾
④ 動詞「なる」

などの可能性がありますね。

ぐはあ。

この4つの見分け方はここではスルーしますが、「打消」の助動詞「ず」の連用形についている「なる」は「動詞」だと確定して大丈夫です。

ずなら
ずなりけり
ずなるとき
ずなれども

というケースの「なら」「なり」「なる」「なれ」は「動詞」です。「ず」とセットで考えて、「~しなくなる」と訳しましょう。

「行かずなる」ならば「行かなくなる」です。

「断定の助動詞」や「伝聞・推定の助動詞」や「形容動詞の語尾」ではないのだな。

「なり」が助動詞であれば「ざるなり」となります。あるいは、「る」が撥音便になって「ざんなり」とか「ざなり」になります。

また、「○○ずなり」という形容動詞はありません。

したがって、打消の助動詞「ず」に続いている「なれ」「なり」「なる」「なれ」は「動詞」です。

ぬ 助動詞

「ぬ」は、「完了」の助動詞「ぬ」の終止形です。

「~た」「~てしまう」などと訳します。

「ぬ」は、このように〈文末用法〉で使用している場合には、「完了」と考え、「た」「てしまう」などと訳しましょう。

なお、直後に「けり」がつき、「~にけり」となることも多いです。「けり」も「た」と訳す助動詞ですが、訳語のうえで「た」を2回書く必要はありません。

「行きにけり」ならば、「行った」または「行ってしまった」と訳します。

「~にけり」ってたくさん目にするね。

ところで、これは別のページでも同じことを述べたのですが、文章の最後にある「たまさかに」は、「たまさかる」と表記している文献もあります。

「たまさかに」であれば、邂逅たまさかに」「たまさかに」「たまさかにという意味で、「めったに現れない」「たまにしか出てこない」という様子を示していると言われます。

「たまさかる」であれば、魂離たまさかる」「魂避たまさかる」という意味で、「心ここにあらず」「放心状態」という様子を示していると言われます。

どちらでも文脈には合うので、「たまさかに」なのか「たまさかる」なのか、作者がどちらのつもりで書いたのかは不明瞭です。

手書きですらすら書くと、判別しにくい仮名もあるからな。

 

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