海はなほいとゆゆしと思ふに、(枕草子)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

海はなほいとゆゆしと思ふに、まいて海女のかづきしに入るは憂きわざなり。腰につけたる緒の絶えもしなば、いかにせんとならん。

枕草子

現代語訳

海はやはりひどく恐ろしいと思うが、まして海女が水中に潜るために入るのは気持ちがふさぐ行為である。腰につけている縄が切れるなどすれば、どうしようというのだろう。

ポイント

なほ 副詞

「なほ」は、副詞です。

「出来事・事態」や「対象への評価・価値観」などが前からずっと続いていることを示し、「依然として」「やはり」などと訳します。

ここでは、「海は前々からずっと恐ろしいと思っているが、改めて考えるとやはり依然として恐ろしい」という文意になります。

いと 副詞

「いと」は、副詞です。程度が甚だしいことを示し、「たいそう」「とても」などと訳します。

ゆゆし 形容詞

「ゆゆし」は、形容詞斎斎ゆゆし」の終止形です。

「神聖なもの」「不吉なもの」といった「忌避すべきもの」を意味します。その点で、もともとは「畏れ多い」という意味合いです。

プラスの意味なら「すばらしい」、マイナスの意味なら「ひどい」などと訳すこともあります。

また、プラスマイナスに関係なく、程度のはなはだしさを示す場合、「たいそう」と訳すこともあります。

その点で、形容詞「いみじ」と非常に近い使い方をする形容詞です。

最初の文だけ読んでも、「海」に対して「ゆゆし」をどういう意味で用いているのかわかりませんが、続く文脈で、「海女が海に入っていくのが気持ちがふさぐ、腰の縄が切れでもしたらどうするんだろう」という「不安の気持ち」が述べられているので、プラスの意味とはなりません。「畏れ多い・不吉」といった意味合いになります。

後ろの文とのつながりを考えると、「恐ろしい」くらいに訳しておくのがいいですね。