うつろふ【移ろふ】 動詞(ハ行四段活用)

薄い色に移る

意味

(1)色あせる

(2)(花や葉が)散る

(3)心変わりする

ポイント

「移る」に、継続・反復の接尾語「ふ」がついて一語化したものです。

「移る」が単純に「位置が変わること」「移動すること」を意味していることに対して、「うつろふ」は、時間の経過に伴って、徐々に変化していくことに使用されやすいですね。

「変化」ということだけど、「色が薄くなる」とか「花が枯れる」とか「愛情が他の人にうつる」とか、ネガティブなことに使用されやすいんだな。

そうですね。

ただ、「色づく」という意味になることもあります。

古文の用例だと、「紅葉する」というタイミングで「うつろふ」を使うことがありますね。

でも、「紅葉する」だと、緑色が黄色っぽくなることだから、やっぱり、春夏っぽい色から、秋冬っぽい色に変化することを言うんだな。

基本的には、美しく目立つ色がつくことを言いたい場合には「にほふ」を用いますね。

「にほふ」は、花が咲くことであっても紅葉することであっても、「目立つ」というニュアンスで使用します。

「うつろふ」のほうは、根本的なニュアンスは「変わる」ということですが、用例として、マイナスな方面に変化することが多いのはたしかですね。

これは私見ですけれども、人って、「濃く色づいている」ときをよく覚えていますから、そこからだんだん色が薄まっていく過程のほうが、「継続」を意味する「ふ」のニュアンスに合っているのだと思います。

ああ~。

たしかに、「色が濃くなっていく」ときよりも、「色が薄くなっていく」ときのほうが、「スタート地点の鮮やかさ」が印象深いぶんだけ、「変化」を「推移」として認識しやすいのかもしれないね。

「恋」なんてまさにそうですよね。

「恋心が盛り上がる過程」よりも、「恋心が薄まっていく過程」のほうが、「だんだん移る」感じがしますよね。

用例

おのづから御心うつろひて、こよなくおぼし慰むやうなるも、あはれなるわざなりけり。(源氏物語)

(訳)自然と(帝の)御心は(藤壺に)心変わりして、格別にお気持ちがまぎれるようであるのも、しみじみと趣き深い様子であった。

桜ははかなきものにて、かく程なく移ろひさぶらふなり。(宇治拾遺物語)

(訳)桜はあっけないもので、こうしてすぐに散っていくのです。

神無月時雨もいまだ降らなくにかねて移ろふ神無備の森 (古今和歌集)

(訳)神無月の時雨もまだ降らないのに、前もって紅葉する神の宿る森よ