え言ひやらず。(堤中納言物語)

〈問〉傍線部の古文を現代語訳せよ。

女の父母、かく来たりと聞きて来たるに、 「はや出で給ひぬ。」 と言へば、いとあさましく、 「名残なき御心かな。」 とて、姫君の顔を見れば、いとむくつけくなりぬ。おびえて、父母も倒れ臥しぬ。娘、 「など、かくのたまふぞ。」 と言へば、 「その御顔は、いかになり給ふぞ。」 ともえ言ひやらず

堤中納言物語

現代語訳

女の父母が、(男が)こうして来たと聞いてやって来たが、「もう退出なさいました。」と言うので、驚きあきれて、「冷淡な心だなあ」と思って、姫君の顔を見れば、たいそう不気味であった。こわがって、父母も倒れ込んでしまった。娘が、「どうして、そのようにおっしゃるのか」と言うのではあるが、「その顔は、どうなさったのか」ともはっきり言うことができない【言い切ることができない】

〈ポイント〉

え 副詞 (~不可能)

「え~打消」は「不可能」を意味し、「~できない」の意味になります。

(例)え行かず。 → (とても)行くことができない。

上代ではむしろ「上手にできる」ことを意味していたようですが、中古以降は下に打ち消し表現や反語表現を伴い、「とても~できない」と訳すことが多くなりました。「とても」という強調句は、記述問題の場合つけなくても問題ありません。選択肢問題の場合、書いてあることもないこともありますので、強調句の有無を正解/不正解の判断基準にはしないようにしましょう。

やる 動詞

「やら」は、動詞「遣る」です。

直後に助動詞「ず」がるので、未然形になっています。

「遣る」は、本動詞の場合、「行かせる」「送る」などと訳します。

何か別の動詞につく場合、補助動詞と考えます。補助動詞の場合は、

a.遠くまで~する。(はるかに~する)
b.最後まで~する。(~し切る)

などと訳します。

「遣る」は「向こうのほうまでやる」というニュアンスなので、補助動詞として使用する場合、a.b.のような訳になるのです。

ただし、補助動詞の場合、「~やらず」の場合が多く「~しきらない」「最後まで~しない」という意味になる傾向が強いです。

たとえば、

「食ひやらず」ならば、「食べきらない」「最後まで食べない」などと訳す。
「消えやらず」ならば、「消えきらない」「完全には消えない」などと訳す。

といった使用法です。

なお、「やらず」の前には「も」が入ることが多くなります。

「言ひもやらず」(すべては言わない)
「行きもやらず」(向こうまで行くというわけでもない)

といった表現です。

 

 

にんじん食ふことえ念じやらず。

(にんじんを食べることを我慢し続けることができない。)