こちたし【言甚し・事甚し】 形容詞(ク活用)

(数・量が)たくさんある

意味

(1)(口数や物事が)はなはだしく多い・度を越している

(2)(言葉や物が多すぎることが)わずらわしい・うるさい

(3)おおげさだ・仰々しい

ポイント

「こと(言・事)」+「甚し」の「こといたし」が、やがて「こちたし」になりました。そのことから、「言葉や物事」が「たくさんありすぎる」という意味になります。

それに対する心情を表す場合には「わずらわしい」「うるさい」などと訳します。

「量」について言うわけではなく、見た目が必要以上に華々しかったり、大きすぎたりするような場合には、「大げさだ」「仰々しい」といった訳し方をします。

「いろいろ言いすぎいぃィ!」「物がありすぎいぃィ!」ってことなんだな。

そうですね。

ただ、漠然と「仰々しい」ことを意味することも多いので、試験問題では「大げさだ」という訳になる(3)のパターンに注意ですね。

なお、「大げさだ」という意味では、類義語に「おどろおどろし」があります。「おどろおどろし」のほうは、もともと雷のゴロゴロを意味していたとも言われており、聴覚的なさわがしさにも使用しますが、「こちたし」は「音声面でのさわがしさ」については使用しません。

あと、話変わるけど「こちなし」って形容詞もなかったっけ?

あります。

ひらがなだと非常に似ていますが、「こちたし」「こちなし」は、成立も意味もまったく別の単語です。

区別しておきましょうね。

例文

御前近くは、例の炭櫃に火こちたくおこして、(枕草子)

(訳)御前近くには、いつものように火鉢に火をひどくたくさんおこして、

葉の広ごりざまぞ、うたてこちたけれど、異木どもと等しう言ふべきにもあらず。(枕草子)

(訳)(桐の)葉が広がる様子は、いやに仰々しい【大げさだ】が、他の木々と同じと言うはずがない(ほどすばらしい)。