老法師のいみじげなる手にて、(枕草子)

〈問〉傍線部を現代語訳せよ。

「物忌みなれば見ず」とて、上についさして置きたるを、つとめて、手洗ひて、「いで、その昨日の巻数」とて請ひ出でて、伏し拝みてあけたれば、胡桃色といふ色紙の厚肥えたるを、あやしと思ひて開けもていけば、老法師のいみじげなる手にて

これをだに かたみと思ふに 都には 葉がへやしつる 椎柴の袖

と書いたり。

枕草子

現代語訳

(籐三位は)「物忌みであるので見ない」と言って、上(のほうに)ちょっと挿して置いていた立文を、翌朝、手を洗って、「さあ、その昨日の巻数(を出して)」と求め出て、伏し拝んで開けたところ、胡桃色という色紙で、分厚くなっているのを、不思議だと思って、だんだん開けていくと、老法師の並々でない筆跡で

せめてこれ【喪服】だけでも (円融院の)形見と思うのに 都では 着替えをしてしまったのか 椎柴の袖

と書いてある。

前後のお話はこちらをどうぞ。

ポイント

いみじげなり 形容動詞(ナリ活用)

「いみじげなり」は、形容詞「いみじ」から派生した形容動詞です。

形容詞「いみじ」は、超重要古語で、以下の3種類の意味のどれかになります。

①(程度が)はなはだしい・並々でない
②とてもよい・すばらしい
③とても悪い・ひどい

「~げなり」の「げ」は「気」であり、「見た目」を意味しています。そのため、「いみじげなり」は、①②③のように見えるようすを示していると考えてください。

「いみじ」が内面についても言及できることに対して、「いみじげなり」は、あくまでも目に見えるようすと意味する語ですが、訳としては、ほぼ同じと考えて大丈夫です。

ここでは、すばらしい筆跡なのか、ひどい筆跡なのか、文脈上判断できないので、「とにかくすごい」というニュアンスで訳しておくのが無難です。①の「並々でない」を当てはめておきましょう。

ただし、選択肢問題であれば、「ひどく読みづらい筆跡」などと解釈してくる可能性があります。他の選択肢が「もっと×」であれば、十分正解になります。

~げなり

「~げなり」となっている形容動詞は、どれも「見た目」のことを言っています。

たとえば、「きよらなり」という形容動詞は、「内実も外見も清らかである」ことを意味しますが、「きよげなり」という形容動詞は、「見た目が清らかである」ことを意味しています。そのことから、「きよげなり」は、「きよらなり」に比べると、ワンランク落ちる誉め言葉になります。

手 名詞

「手」は「筆跡」を意味することがあります。ここでは、胡桃色の色紙に歌が書かれているのですから、まさに「筆跡」の意味になります。

にて 格助詞

「にて」は、格助詞です。

格助詞の「にて」は、

① 時・場所 ~で・~において
② 手段・方法 ~で・~によって
③ 原因・理由 ~で・~によって
④ 資格・状態 ~で・~として

など、様々な用途で用いますが、基本的には「~で」と訳しておけば大丈夫です。