前途多難・・・
意味
(1)面倒だ・前途多難だ
(2)不都合だ
(3)とんでもない・もってのほかだ・あるまじきことだ
ポイント
「たぎたぎし」から転じた語という説があり、その場合「怠」は中世以降の当て字といわれます。
「たぎたぎし」の「たぎ」は、岩肌を屈折しながら落ちる「滝」と同根で、「道がデコボコである」「足がぎくしゃくする(歩行がはかどらない)」といった意味になります。
「デコボコ道」を進んでいくことは面倒で前途多難なことですので、そういう状況から(2)「不都合だ」という意味で使用されます。
非難めいた気持ちが強い場合には(3)「とんでもない・もってのほかだ」などと訳すのがいいですね。
その説とは別に、漢語「怠」を重ねて成立したという考え方もあります。
「怠」の字からできた説もあるんだね。
そうですね。
たとえば「労労じ」なども、漢語を重ねて形容詞として用いている語です。
「たいだいし」については、中世から「怠々」「退々」という字でも書くようになるので、「当て字ではないか」と言われていますが、そもそも「怠」という字からきた語を平安時代にひらがなで書いていただけかもしれないですね。
こちらの説で考えると、「怠惰」「怠慢」の「怠」の「たるんでいる」という語感から、「もっとしっかりしてほしい」と言いたい場面で使ったのだと考えることができます。
実際、何かの落ち度や選択のミスなどがあるようなときに、それをとがめる男性のセリフによく使用されます。
7月31日になっても宿題が終わっていない子どもを形容して、「怠&怠」っていうようなもんかな。
先生側から見て、「(たるんでいて)とんでもない・もってのほかだ」ということですね。
でもこれ、生徒側から見ても「(宿題が多すぎて)不都合で困ったことだ」って言えるよね。
ああ~。言えますね。
いずれにしても、「不都合だ」と「とんでもない・もってのほかだ」という訳し分けについては、「非難の気持ち」の強度の違いくらいにとらえておいて大丈夫です。
「困ったなあ」くらいだったら「不都合だ」としておいて、「あるまじきことだ!」とクレームをつけているような文脈なら「とんでもない・もってのほかだ」と訳しておくといいですね。
実際にはどちらで訳しても問題ない例文も多いです。
例文
かく世の中の事をも思ほし捨てたるやうになりゆくは、いと、たいだいしきわざなり。(源氏物語)
(訳)(帝が)このように世の中の事【政務】をお見捨てになったようになっていくのは、たいそう、とんでもないこと【もってのほかのこと】である。
のぼりてあはめたてまつれ。法師ばらにも、いとたいだいしく経教へなどすなるは、なでふことぞ。(蜻蛉日記)
(訳)(山寺に)上って(妻【道綱母】を)たしなめ申し上げよ。法師たちも、たいそうとんでもないことに【不都合なことに】経を教えなどするのは、どういうことだ。
「不都合だ/とんでもない・もってのほかだ」は、どれでも訳せる場合が多いです。
心を起こしたまふほどは強くおぼせど、年月経れば、女の御身といふもの、たいだいしきものになむ。(源氏物語)
(訳)(出家を)決心なさった時は強くお思いになっても、年月が経つと、女のお身の上というものは、不都合なもの【前途多難なもの】である。
この例文のように、「前途多難だ」と訳せるものもあります。
「たいだいし」が「たぎたぎし」から転じた語という説に沿えば、「先行きが平坦でない」という根本的なニュアンスを活かしているといえます。
記述問題の場合、「不都合だ」「とんでもない」「もってのほか」でだいたいOKですが、選択肢問題などでは「前途多難だ」といった意味が正解になる可能性があると考えておきましょう。