つつむ【慎む】 動詞(マ行四段活用)

自分の気持ちをつつんでおく

意味

(1)遠慮する・気がねする・はばかる

(2)気後れする・気が引ける

ポイント

「つつむ」というと、まず「包む」が思い浮かぶと思います。

布などで物体をくるんだりかくしたりすることが「包む」ですが、その「隠すもの」が「心情」である場合には、「慎む」の字を当てます。「裏む」とすることもあります。

主に「自分のしたいことをつつみかくしている」状況に使いやすいです。

ひらがなで「つつむ」となっている場合には、そもそも「包む」なのか「慎む」なのか、注意が必要なんだな。

「包む」の場合は現代語と同じ用い方なので、そのまま「包む」「かくす」「秘める」などと訳しておけばOKです。

「つつむ」の意味が問われている場合はたいてい「慎む」のほうです。「慎む」の場合は、偉い人とか立派な人が目の前にいるケースが多いです。自分の意志が表に出ることをおそれ慎んでいるわけですね。

ただ、もともと「モノを包むように気持ちをつつんでおく」ということが「慎む」ですから、きっぱり区別できない例文もあります。

特に「隠したい対象」が「気持ち」の場合には、「気持ちを隠す(秘める)」と訳しても、「気持ちを表に出すことをはばかる(遠慮する)」と訳しても、どちらでも問題ないケースがあります。

たとえば、次のような例文です。

いみじうつつみたまへど、しのび難き気色の漏り出づる折々、宮も、さすがなる事どもを多く思し続けけり。

(訳)(源氏は宮への思いを)つとめてお隠しになるが、忍びがたい思いが漏れ出る折々は、宮【藤壺宮】もさすがに忘れられない(源氏との)事などを、あれこれ思い続けていらっしゃった。

源氏物語

上記の訳し方は、「つつむ」を「包む」のほうでとって、「隠す・秘める」という意味で訳しています。

ところが、この「つつむ」を「慎む」の意味でとって、「宮への思いが表に出るのをつとめて遠慮して【はばかって】いらっしゃるが、」と訳しても、間違いとはいえません。

この例文のように「心情をつつむ」というケースでは、「包む」「慎む」のどちらで訳しても問題ないこともあります。

ふむふむ。

試験に限っていえば、「心情をつつむ」という文脈であれば、「慎む」のほうでとる可能性のほうが高いです。

その際、「意志をわざと表に出さない」のであれば「遠慮する・はばかる」などと訳し、状況的に「意志を表出する余地がない」ような場合などは「気後れする・気が引ける」などと訳すことが多いですね。

ただ、これも文脈上どちらでも当てはまる場合には、どちらで訳してもOKです。

まず、「包む」or「慎む」を考えて、「慎む」のほうであれば、「わざと表に出さない」のか、「表に出すことができない」のか、考えればいいわけだな。

恙む・障む (自動詞)

そうです!

ここでさらにややこしいことを言っておくと・・・

「つつむ」は「恙む(障む)」と書くこともありまして、その場合は、「差し障りがある」「障害にあう」「病気になる」などと訳します。

「困難や障害が身をつつんでいる」というような意味なのかな。

まさにそういうことですね。

「包む」「慎む」は他動詞ですが、「恙む(障む)」の場合は、「障害そのものが人の周りに存在している」という文意で使用されますので、自動詞の扱いです。

ちなみに、「恙」という漢字は、「痒+心」の簡易版でして、「痒くなるもの(不調にさせるもの)」という意味があります。この漢字を「つつむ」と訓じている場合には、「不調にさせるものが人の周りにある」ということになりますね。

ああ~。

現代語で「恙なく(つつがなく)進行する」っていうのは、この「恙」なんだな!

そうです。

「恙む(つつむ)」が形容詞化したのが「恙なし(つつがなし)」です。「差し障りない」「障害がない」という意味です。

「恙虫(ツツガムシ)」という虫もいるのですが、これは要するに、「(刺されると)差し障りがある虫」ということですね。

「恙」ということばから、「つつがなし」という形容詞や、「恙虫(ツツガムシ)」という名称が生まれたんだね。

そういうことになりますね。

例文

このふる里の女の前にてだにつつみはべるものを、さるところにて才さかし出ではべらむよ。(紫式部日記)

(訳)この実家の侍女の前でさえ、(学才をひけらかすことを)遠慮しておりますのに、そのようなところ【宮中】で、学才をひけらかすでしょうか。いや、いたしません。

八月十五日ばかりの月に出でゐて、かぐや姫いといたく泣き給ふ。人目も今はつつみたまはず泣きたまふ。(竹取物語)

(訳)八月十五日ごろの月(の夜)に(縁側に)出て座って、かぐや姫はたいそうひどくお泣きになる。人目も今ははばかりなさらずお泣きになる。

大人大人しう、恥ずかしげなるにつつまれて、とみにもうち出でたまはず。(源氏物語)

(訳)(尼君の)落ち着いていて、(こちらが気後れするほど)立派な様子に気が引けて、(源氏は)すぐには(紫の上を引き取りたいと)口に出すことがおできにならない。

大船を 荒海に出だし います君 つつむことなく はや帰りませ (万葉集)

(訳)大船を荒海に乗り出して、その海にいらっしゃるあなたよ。差し障ること【障害にあうこと】なく、早くお帰りください。

これは「恙む(障む)」の意味ですね。