意味
① 行かせる・つかわす・派遣する
② (手紙や物を)送る・贈る・与える
③ (気を)晴らす・(うさを)晴らす・(心を)慰める
④ 遠くまで~する・はるかに~する *補助動詞として
⑤ 最後まで~する・すっかり~する・~しきる *補助動詞として
ポイント
「やる」は、「こちらから向こうに行かせる・送る・届ける」といった意味です。
漢字で書くと、「遣隋使」「遣唐使」でおなじみの「遣る」となります。
「遣」を「おこす」と読むこともありますが、その場合、「向こうからこちらに送ってくる」という意味になりますので、ベクトルが逆になりますね。これは現代語では「よこす」と言います。
ああ~。
「よこす」はけっこう使うよね。
「やる」も、「相手を思い遣る」とか「ふるさとを思い遣る」などの「やる」なので、けっこう使います。
そうか。
「思いやり」は、「思いを派遣する」ってことなんだな。
「離れたところに意識を向ける」という意味にもなりますね。
いずれにしても「派遣する」というイメージです。
さて、古文では、⑤⑥のような「補助動詞」のかたちでもよく使用されますので、注意しておきましょう。
空間的な「向こう」に行為や作用を及ぼすという意味合いで「〇〇やる」と述べているのであれば、「遠くまで~する」「はるかに~する」などと訳します。
行為や作用が「終了地点」まで送り届けられるという意味合いで「〇〇やる」と述べているのであれば、「最後まで~する」「すっかり~する」「~しきる」「~し終える」などと訳します。こちらの使い方は、打消の「ず」を伴って、「最後まで~しない(できない)」「~しきらない・しきれない」などと訳すことが多いです。
「言ひやらず」であれば、「最後まで言いきらない」ということで、
「食ひやらず」であれば、「最後まで食べきれない」ということだな。
そのとおりです。
ちなみに、「やらず」の前に「も」が入ることがけっこう多いです。
「言ひもやらず」(すべては言わない)
「行きもやらず」(向こうまで行くというわけでもない)
といった表現ですね。
例文
をとこの着たりける狩衣の裾を切りて、歌を書きてやる。(伊勢物語)
(訳)男が着ていた狩衣のすそを切って、歌を書いて贈る。
夜光る玉といふとも酒飲みて心をやるにあにしかめやも (万葉集)
(訳)夜光る玉であろうと、酒を飲んで心(のうさ)を晴らすのにどうしてまさろうか、いや、まさらない。
「もやもやした気持ちをどこかにやってしまう」というニュアンスで使用されています。
この場合の「やる」は、「晴らす」などと訳します。
思ひやれば、かぎりなく遠くも来にけるかなとわびあへるに、(伊勢物語)
(訳)はるか遠く(の都)に思いをはせると、とんでもなく遠くに来たものだと嘆きあっていると、
言ひもやらず、むせかへりたまふほどに、(源氏物語)
(訳)最後まで言いきることができず、涙にむせかえっていらっしゃる間に、