身がやせ細るような思い
意味
(1)(身がやせ細るほど)たえがたい・つらい
(2)(消え入りたいほど)はずかしい・きまりが悪い
(3)つつましい・ひかえめだ
(4)優美だ・上品だ・風流だ・しとやかだ
(5)けなげだ・殊勝だ
ポイント
動詞「痩す(やす)」が形容詞化したもので、文字通り「身がやせ細るようだ」という意味になります。
ストレートに「身もやせ細るほどに」とか「消え入りたいくらいの」などと訳すこともありますが、それほどに「たえがたい」「はずかしい」と訳すことが多いです。
痩せちゃうほどつらいとか、縮こまっちゃうほどはずかしいってことなんだな。
そういう気持ちでいると、ふるまいも地味で目立たなくなりますよね。それが③の意味で、「つつましい」「控えめだ」などと訳します。
さて、(3)のような「つつましい控えめな態度」は、気を配った繊細なふるまいになりますから、「優美」「上品」「風流」に見えますよね。そのことから、(4)の意味で用いられはじめたといわれます。
また、身が細るほどたえがたい状況でも、その困難をなんとかしようと立ち向かっている様子は、「けなげ」で「殊勝」であると言えます。そのことから、(5)の意味で用いられはじめたと考えられます。
(4)と(5)の成り立ちについては、こちらの肩身が狭くなるほど相手の性質がよいことからきているという説もあります。
どちらの立場で説明しているかは、辞書によって様々ですね。10冊くらい引くと半々です。
「こちらの身が細くなるほど相手の性質がよい」という考えだと、「立派だ」とか「見事だ」とかいう意味になりそうで、いまいち「優美」とか「風流」とかに結びつかないように思う。
どちらかというと、「身がやせるほど気を配って、相手に失礼のないつつましいふるまいをしている」ということから「優美」「上品」「風流」になっていったと考えるほうが、理屈が通っているように見えますね。
例文
世の中を 憂しとやさしと 思へども 飛び立ちかねつ 鳥にしあらねば(万葉集)
(訳)世の中を、つらい、(身がやせ細るほど)たえがたいと思うけれども、(どこかへ)飛んでいくことはできない。鳥ではないのだから。
選択肢であれば、「消え入りたいほど恥ずかしい」などと訳されるかもしれません。
恐ろしき猪も、「臥す猪の床」と言へば、やさしくなりぬ。(徒然草)
(訳)恐ろしい猪も、(和歌で)「臥す猪の床」と言うと、風流に【上品に】なってしまう。
「やさしう申したる物かな」とて、錦の直垂を御免ありけるとぞ聞えし。(平家物語)
「けなげにも申し上げたものだ」と言って、錦の直垂(の着用を)お許しになったということだ。
立場の弱い者が、困難に立ち向かっていくような様を、「けなげ」「殊勝」などと言います。