ねんず【念ず】 動詞(サ行変格活用)

意味

① 祈る・祈願する

② 我慢する・耐える

ポイント

漢語の「念」に、サ行変格活用「す」がついて一語化した動詞です。

「念」には、もともと神仏にまつわる気持ちが根底にあり、「念願」「念仏」など、現在でも使用される言葉です。そういった「念」を意識的・積極的に持つことが「念ず」です。

そのことから、「念ず」は、「神仏に願うような気持ちを強く持つ」という意味合いになります。

たしかに、念仏を唱えているときというのは、仏さまに何かしら祈っているわけだからな。

「念を込める」というような使い方も、神仏的で、超越的な存在を信じたうえでの「強い気持ち」を込めるということですよね。

とにかく、「念」はそういう意味合いをもつ語なので、「念ず」といった場合、基本的には「祈る」「祈願する」などと訳すことが多いです。

ただ、「念ず」にはもう一つ重要な意味があります。

なんだ?

「何かに祈るとき」っていうのは、どういう場合が多いでしょうか?

う~ん。

最近では歯が痛いときに「神様ヘルプ」って思ったな。

そうですよね。

一般的には、困難や逆境に直面しているときにこそ、「助けて神様仏様」と祈るものですよね。

このように、「祈っている時」というのは、多くの場合「何かに耐えている時」ということになります。そのことから、「祈る」という行為をしていなくても、「念ず」という語は使用されるようになりました。

その場合、「我慢する」「耐える」などと訳します。

たしかに、「祈ること」と「耐えること」って、直面している状態は似ているかもしれないね。

はい。

あとは、文法的な注意点として、「念ず」の活用語尾は「濁音」になっていますが、「行変格活用」であって、「ザ行」とは言いません。

これは構造上、「念」に「す」がついたからです。発音の都合上「ず」になっていますが、実態は「す」なので、「行変格活用」とするのですね。

例文

仏神に願を立ててなん念じける。(源氏物語)

(訳)仏神に願いをかけて祈った。

いま一声呼ばれていらへんと、ねんじて寝たるほどに、(宇治拾遺物語)

(訳)もう一声呼ばれてから返事をしようと、我慢して寝ているうちに、

思ひとどめてこそはと念じ過ぐしたまひつつ、(源氏物語)

(訳)出家したいという気持ちを落ち着かせようと、我慢してお過ごしになって、

「念ず」は、「念じ入る」「念じ過ぐす」「念じ果つ」「念じ返す」といったように、複合語のように使われることも多いです。

その際、「念じ入る」は「一心に祈る」といった意味になりますが、それ以外はどれも「我慢する」の意味のほうで用いられます。