〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。
世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くは皆そらごとなり。あるにも過ぎて人はものを言ひなすに、まして年月過ぎ、境も隔たりぬれば、言ひたきままに語りなして、筆にも書きとどめぬれば、やがてまた定まりぬ。道々の物の上手のいみじきことなど、かたくななる人のその道知らぬは、そぞろに神のごとくに言へども、道知れる人は、さらに信も起こさず。音に聞くと見るときとは、何事も変はるものなり。
徒然草
現代語訳
世間で語り伝えることは、真実はおもしろくないのであろうか、多くは皆うそである。実際以上に人は物事をことさらに言うものなのに、まして年月が過ぎ、場所も離れてしまうと、言いたいままにおおげさに語って、文章にも書きとどめてしまうので、すぐにまた定着してしまう。それぞれの専門の道の名人のすばらしいことなどを、無教養な人で、その(専門の)道を知らない人は、むやみやたらに神のように言うけれども、(その専門の)道について知っている人は、まったく信じる気を起こさない。評判に聞くのと見る時とでは、何事も異なるものである。
ポイント
まこと 名詞
「まこと」は、名詞です。「真」「誠」「実」などと書きます。
「真・言」「真・事」ということです。
「真実」「誠実」「真心」などと訳します。
あいなし 形容詞(ク活用)
「あいなき」は、形容詞「あいなし」の連体形です。
「おもしろくない」「つまらない」という意味です。
なり 助動詞
「に」は、「断定」の助動詞「なり」の連用形です。
【活用語の連体形】+「に」+「や」+「あらむ」のパターンで、「あらむ」は省略されています。
この場合の「に」は、断定の助動詞「なり」の連用形と判断します。
や 係助詞
「や」は、係助詞です。
「や」は、「疑問・反語」の意味になりますが、ここでは「疑問」です。
直後に「あらむ」が省略されています。
そらごと 名詞
「そらごと」は、名詞です。「虚言」「空言」と書きます。
そのまま「虚言」と訳出すればいいですね。
「うそ」「いつわり」などと訳してもいいです。
なり 助動詞
「なり」は、「断定」の助動詞「なり」の終止形です。