なにしおはば あふさかやまの さねかづら ひとにしられで くるよしもがな
和歌 (百人一首25)
名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな
三条右大臣 『後撰和歌集』
歌意
恋しい人に逢い、ともに夜を過ごすという名を背負っているのであれば、その逢坂山のさねかずらをたぐり寄せるように、人に知られないであなたを連れてくる方法があればいいなあ。
作者
作者は「三条右大臣」です。「藤原定方」のことです。
「宇多天皇」の皇后である「藤原胤子」の兄弟なので、「定方」は「醍醐天皇」の外叔父にあたります。
こりゃまた超上位層だな。
なにしろ右大臣ですからね。
凡河内躬恒や紀貫之の後援もしていました。
ポイント
名にし負はば
「負はば」は、「負ふ」の未然形+「ば」なので、仮定条件の訳になります。
「名に負うならば」ということですね。
「名」は、「逢坂山」の「さねかずら」という「名」を指しています。
つまり、「逢坂山」「さねかずら」という「名前を背負っているのであれば」という意味になりますね。
逢坂山の
「逢坂山」は、「都の出入口」である「逢坂の関」がある山です。
「逢坂山」という地名と「逢ふ」という動詞の「掛詞」ですね。
「逢坂の関」なら、蝉丸の歌に出てきたよね。
そうですそうです。
「逢」という字が使われていますし、実際、「都へ入る人/都から出る人」の出会いと別れの場所でしたので、和歌に「逢坂」とあったら「逢ふ」の意味が掛けられていると考えましょう。
さねかづら
「実葛(さねかずら)」は、常緑(半常緑)のつる性の植物です。昔から日本にあり、「万葉集」にも出てきます。
「寝」に接頭語の「さ」がついた「さ寝」という語は、普通に寝ることを意味することもあれば、男女が共寝をすることにも用います。
ここでは「さねかずら」の「さね」に、「男女の共寝」の意味での「さ寝」が掛けられています。
「実」と「さ寝」の「掛詞」なんだな。
さらに、「さね」は「逢ふ」の「縁語」です。
また、「さねかづら」は、「くる(繰る)」の「縁語」です。
人に知られで
「れ」は、受身の助動詞「る」の未然形、「で」は打消接続の接続助詞です。
「人に知られないで」「人に知られずに」などと訳します。
人に知られたくない恋なのだね。
くるよしもがな
「くる」は、「繰る」と「来る」の「掛詞」です。
「さねかずら」のツルを「たぐりよせる」ように、あなたを「連れてくる」ということですね。
おわあ、シャレオツだね。
「よし」は、「由」です。
因果関係や前後関係の「流れ」や「前提」を示すことばで、「理由」「わけ」「いきさつ」「手だて」「方法」「いわれ」「ゆかり」など、多様な訳し方をします。
ここでは文脈上、「方法・手段・手だて」の意味でとりましょう。
「もがな」は「願望」の終助詞だったな。
そうです。
「~があるといいなあ」「~であればなあ」などと訳します。
ここでは「さねかずらのつる草を繰るように、あなたを連れて来る方法があればなあ」ということになりますね。