〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。
都に久しく住みて、馴れて見侍るに、人の心劣れりとは思ひ侍らず。なべて心やはらかに、なさけあるゆゑに、人の言ふほどの事、けやけくいなびがたくて、万え言ひ放たず、心弱く言承けしつ。
徒然草
現代語訳
都に長年住んで、慣れて見ておりますに、人の心が劣っているとは思いません。一般に心が柔和で、人情があるために、人が言うほどのことを、はっきりと断りにくくて、すべてはっきり言うことができず、気弱く口先で承諾してしまう。
ポイント
なさけ 名詞
「なさけ」は、名詞「情け」です。
「情け」は「思いやり」をベースにした心のはたらきであり、話題が「人間関係」なら「人情」、「男女関係」なら「愛情」、「自然関係」なら、「風流心」などと訳します。
ここでの話題は「人間関係」なので、「人情」などと訳しましょう。
けやけし 形容詞(ク活用)
「けやけく」は、形容詞「けやけし」の連用形です。
「異(け)」に接尾語「やか」がついて形容詞化した語です。
「異し(けし)」という形容詞と同根であり、意味は似ています。
「異し」と同様に「異やけし」も「普通と違う」ということですが、「けやけし」のほうが「異質さが際立っている」という意味合いが強いです。
そのため、「特別だ」「目立っている」と訳すこともありますし、「すぐれている」「しゃくに障る」などと、プラス・マイナスの評価付きで訳すこともあります。
この場面では、直後の「いなぶ(断る)」に係っているので、「普通よりも特別に目立った様子で断る」というニュアンスになります。そのことから、「きっぱりと(断る)」などと訳せるといいですね。
いなぶ 動詞(バ行上二段活用)
「いなび」は、動詞「否ぶ(いなぶ)」の連用形です。
「断る」「拒む」などと訳します。
「否(いな)」に接尾語がついて動詞化しました。
「拒否」「否定」の「否」であり、訳もそういうものになります。
かたし 形容詞(ク活用)
「がたく」は、形容詞「難し(かたし)」の連用形です。
他の動詞に補助的についている場合、「~しにくい」「~しがたい」と訳します。
「かたし」は、「固」「硬」「堅」の字が該当して、「固い」「硬い」「堅い」と訳すものもあります。
ただ、他の動詞に補助的についている「かたし」は、だいたい「難し」です。
「難し」は、単独で使用されている場合は、「困難だ」「難しい」と訳しますが、他の動詞に補助的についている場合は、「~しにくい」「~しがたい」と訳しましょう。