きこゆ【聞こゆ】 動詞(ヤ行下二段活用)

自然と耳に入る(ように話す)

意味

自動詞 (敬語ではない)

(1)聞こえる

(2)評判になる・有名である

(3)わけがわかる・理解できる

(4)思われる

他動詞 (謙譲語)

(1)申し上げる

(2)差し上げる

(3)(~と)お呼びする

補助動詞 (謙譲語)

(1)お~申し上げる

(2)~てさしあげる 

ポイント

動詞「聞く」に、上代の助動詞「ゆ」がついて、「聞かゆ」となったものが、「聞こゆ」と音変化しながら一語化しました。

「ゆ」は「自発」を意味しましたので、「聞こゆ」というのは、「聞こえる」という意味になります。

「世間に聞こえる」という文脈であれば、「評判が高い」などと訳します。

それがどうして謙譲語の「申し上げる」になるんだろうね。

平安の女流文学者たちのなかでは、「偉い人の耳に自然に入るように話す」という「話し方」が、「敬意をこめた話し方」だったのではないでしょうか。

ああ~。

なんていうか、「今から言いますから聞いてください!」って感じで、相手を身構えさせるのではなくて、「相手が自然体でいてもそのままお耳に届くような話し方」というのが「聞こゆ」だったのだろうな。

まさにそうだと思います。

男性社会の公的な文書では「申す」が主流であり、「聞こゆ」という表現はほぼ出てきません。

「聞こゆ」は、もっぱら物語日記などに多用されていきます。

例文

笛の音のただ秋風ときこゆるになどをぎの葉のそよと答へぬ (更級日記)

(訳)笛の音がただ秋風のように聞こえるのに、なぜおぎの葉が「そよ」と返事をしないのか。

きこゆる木曾の鬼葦毛といふ馬の、きはめて太うたくましいに、金覆輪きんぷくりんくら置いてぞ乗つたりける。

(訳)(義仲は)評判の高い【有名な】木曾の鬼葦毛という馬で、とても太くてたくましいのに、金覆輪の鞍を置いて乗っていた。

いで、御消息きこえむ。(源氏物語)

(訳)さあ、ごあいさつを申し上げよう。

御消息やきこえつらむ、例の、いと忍びておはしたり。(源氏物語)

(訳)お手紙を差し上げたのだろうか、(源氏は)いつものように、たいそう目立たないようにしていらっしゃった。

竹の中より見つけきこえたりしかど、菜種の大きさおはせしを、我が丈たち並ぶまで養ひたてまつりたる我が子を、何人か迎へきこえむ。(竹取物語)

(訳)竹の中から見つけ申し上げたが、菜種ほどの大きさでいらっしゃったのを、私の背丈と並ぶまで養い申し上げたわが子を、(私から引き離すために)誰が迎え申し上げだろうか、いや、できるはずがない。