かしこし【畏し・恐し・賢し】 形容詞(ク活用)

畏怖・畏敬

意味

(1)畏れ多い・恐れ多い

(2)尊い・高貴だ

(3)賢明だ・利口だ

(4)すぐれている・巧みだ

(5)たいそう・非常に  *連用形「かしこく」を副詞的に用いる場合

ポイント

もともとは、自然現象に対する「畏怖の念」を示す語です。「恐」「畏」の字を「かしこし」と訓じました。

「壮大で神的な事物・事象」に対する感情であり、「海」「山」「雷」など、いかにも霊的な力が宿っているような現象に多く用いられました。

そのうち、人智を超えていると言いたくなるほどの人や物にも広く用いられるようになり、「尊い」「高貴だ」と訳す用例も増えていきます。

また、知性や技能の優秀さを表すものとして「賢明だ」「利口だ」「巧みだ」などという意味でも使用されていきます。この使い方に漢字をあてる場合には「賢し」になりますね。

なお、連用形「かしこく(かしこう)」が副詞的に用いられている場合には、「超越している」というニュアンスで「たいそう」「非常に」と訳す場合ことも多いです。

現代語でも「かしこまる」っていうもんな。

古語の意味のとおりで現代に残っていることばですね。

現代語では、もっぱら「恐縮しているこちらの心情」を意味しますが、古語では、「こちらがそう思うくらい相手がすばらしい」という意味で、対象をほめるときによく使用しますね。

なんか、神様みたいなものに対する「すげえ」って感情を意味することばに、「いみじ」とか「ゆゆし」なんかもあったよね。

授業を展開してくれるとてもいい質問です! そのとおりです。

ただ、「かしこし」は、「人智を超えたすばらしさ」ということであって、「人間の能力をはるかに超えている」ということなのですね。あえて上下関係でいえば「上に突き抜けている」ということなのです。

そのため、人間に対して「かしこし」と表現する場合には、「突き抜けてすぐれている」というニュアンスになりますね。

「偏差値2億!」みたいなもんだな。

一方、「いみじ」「ゆゆし」は、もともと「程度が並々でなくて、できれば近づきたくない」ということです。

その「程度が並々でない状態」が「よい側」なら「すばらしい」と訳しますし、「悪い側」なら「ひどい」ということになります。シンプルに「程度が並々でない」ことを意味するのであれば「はなはだしい」「たいそう~」などと訳します。


結果的に似たような使い方になる場合もあるのですが、「いみじ」「ゆゆし」のほうは、もともと「距離を取りたい」という感覚から出発しているので、マイナスな意味にもなるのですね。

「いみじ」や「ゆゆし」を「よい方面」で用いている場合に、「かしこし」と似た意味になるということなんだな。

例文

世に知らず、聡うかしこくおはすれば、(源氏物語)

(訳)(源氏の君は)世間に例がないほど、聡明で賢くいらっしゃるので、

この「かしこし」は、現代語と同じ意味になるので、ここを問いたくて試験問題にする可能性は低いです。

とみの物縫ふに、かしこう縫ひつと思ふに、(枕草子)

(訳)急ぎの物を縫う際に、巧みに(上手に)縫ったと思ったのに、

風吹かず、かしこき日なり。(源氏物語)

(訳)風も吹かず、(蹴鞠をするには)すぐれている(とてもよい)日だ。

男はうけきらはず呼び集へて、いとかしこく遊ぶ。(竹取物語)

(訳)男はえり好みせず呼び集めて、たいそう盛大に管弦の催しをする。

もともと「畏怖の念をもつほどの壮大な自然現象」を「かしこし」と形容していたので、「人間の側がただひたすら縮こまってひれ伏すしかないほど、対象の存在感が大きい」という意味を持っています。

特に「かしこく(かしこう)」という連用形で使用する際には、「非常に」「たいそう」という意味になることが多いです。

ここは直前に「いと」があることからも、単純に「たいそう」と訳すのもおかしいので、直後の「遊び」から考えて、「盛大に」などと訳せるといいですね。