なやむ【悩む】 動詞(マ行四段活用)

へなへなでくたくた

意味

(1)苦労する・難儀する・困る

(2)病気になる・病に苦しむ

(3)非難する・(対象を)困らせることを言う

ポイント

ゆ」と同根の語であると言われます。

「ぐったりする」という意味の「萎ゆ」に、「~のような状態になる」「~のようにふるまう」という接尾辞の「む」がついたというところでしょうね。

「なゆ」が、モノや、身体の一部分などに使用しやすいのに対して、「なやむ」は、人間一人の総合的な状態に用います。

現在のように「くよくよ思い悩む」ってことじゃないんだね。

そうですね。

古語の「なやむ」は、どちらかというと「身体的苦痛」の意味合いが大きいです。

まずは「苦労する」か「病気になる」をあてはめてみるといいですね。

しっくりこなければ(3)の「非難する」をうたがいましょう。

「苦労する」「病気になる」という意味としては、同じような訳をする動詞「わづらふ」がありますので、セットで覚えてしまえると合理的です。

例文

今日、川尻に舟入りたちて、漕ぎ上るに、川の水干て、悩み煩ふ。(土佐日記)

(訳)今日、河口に舟が立ち入って、こぎ上るが、川の水が干上がって【少なくなって】、苦労し難儀する。

「悩む」と「煩ふ」は、どちらも「苦労する」「難儀する」と訳せる動詞です。

ほぼ同じ意味で用いられる動詞が並べられているのですね。

身にやむごとなく思ふ人のなやむを聞きて、いかにいかにと、おぼつかなきことを嘆くに、おこたりたる由、消息聞くも、いとうれし。(枕草子)

(訳)自分にとって捨て置けなく思う人が病に苦しんでいると聞いて、どのようかどのようかと、不安であることを嘆いていると、病気が治ったことを、便りで聞くことも、たいそううれしい。

せっかくなので、「病気が治る」という意味の「おこたる」も覚えておきましょう。

御子もおはせぬ女御の后に居給ひぬること、安からぬことに世の人なやみ申して、(栄花物語)

(訳)お子様もいらっしゃらない女御が后におなりになったことを、心中穏やかではないと世間の人々が非難し申し上げて、

この場合、「なやむ」のはむしろ「対象」になりますね。

このように「(対象を)困らせることを言う」という文意で用いられている「なやむ」は、「非難する」という訳になります。