おほらかにして賜べ。/色々に調じて、(宇治拾遺物語)

〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。

おのれ物のほしければ、人にも見せず、隠して食ふ程に、物の飽かず多くほしかりければ、妻にいふやう、「いひ、酒、くだ物どもなど、おほらかにして。我にきて物惜しまする慳貪けんどんの神祭らん」といへば、「物惜しむ心失はんとする、よき事」とよろこびて、色々に調じて、おほらかに取らせければ、受け取りて、「人も見ざらん所に行きてよく食はん」と思ひて、行器ほかゐに入れ、瓶子へいじに酒入れなどして、持ちて出でぬ。

宇治拾遺物語

現代語訳

(長者は)自分が食べ物がほしいと、人にも見せず、隠して食べるうちに、食べ物が飽きないほど多くほしくなったので、妻に言うことには、「飯、酒、果物などを、たくさんください。自分にとりついて物を惜しませる慳貪の神を祭ろう」と言うと、「物を惜しむ心を失わせようとするのは、よいことだ」と喜んで、いろいろと調達して、たくさん取らせたところ、(長者は)受け取って、「人が見ないような所に行って存分に食べよう」と思って、行器に入れ、瓶子に酒を入れるなどして、持って出かけた。

ポイント

おほらかなり 形容動詞(ナリ活用)

「おほらかに」は、形容動詞「多らかなり」の連用形です。

上代には、まず「おほし」という形容詞がありまして、それは、「数量が多い」ことも、「容積が大きい」こともどちらも示しました。

次第に、「おほし」は「数量が多い」ということを中心的に意味するようになります。その語幹である「多(おほ)」に、接尾語「らか」がついて形容動詞化したものが「おほらかなり」ですね。

一方で、「容積が大きい」ことは、「おほきなり」という形容動詞を用いるようになります。

これだと、ひらがなで書かれると、「多」なのか「大」なのかまぎらわしいね。

たいていは前後の文脈でわかりますので大丈夫です。

ここも食べ物をほしがっているわけですから、「多」と考えればいいです。

す 動詞(サ行変格活用)

「し」は、動詞「す」の連用形です。

たぶ 動詞(バ行四段活用)

べ」は、敬語動詞「たぶ」の命令形です。

「たまふ」がつまって「たぶ」になったと考えられています。そのことから、意味も使い方も「たまふ」とほぼ同じです。

本動詞ならば「お与えになる」「くださる」と訳し、補助動詞ならば「お〜になる」「〜なさる」と訳します。

ここでは、会話の中で命令形で使用していますので、「お与えになれ」とお願いしているわけですね。訳としては「ください」とするのがいいです。

調ず 動詞(サ行変格活用)

「調じ」は、動詞「てうず」の連用形です。

「調ず」の「調」は、「ととのえる」の意味です。

この文脈では、「調達する」と訳すのがいいですね。

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