つらし【辛し】 形容詞(ク活用)

塩対応がうらめしい

意味

(1)薄情だ・冷淡だ

(2)たえがたい・うらめしい・苦痛だ

ポイント

「辛し(からし)」という語がありますが、「つらし」にも「辛」の漢字をあてます。意味も近いものになります。

「塩をなめたときのような刺激」を現代語でも「からい」といいますよね。そのように、痛みを生じさせる刺激に対して「からし」や「つらし」は用いられます。

ただ、「つらし」の「つら」は「つれなし」の「連れ」と同根といわれ、「相手」を意味するものとされます。

そういう点で、「からし」が、「苦しい状況」を広く意味するのに対して、「つらし」は、ほぼ人間関係にしか使いません。

でも、「つれなし」が「連れ」が「無し」で「薄情だ・冷淡だ」っていう意味なんだから、「つらし」も「薄情だ・冷淡だ」って訳になるのはおかしいんじゃないの?

「つら・つれ」というのを、「相手の態度」と考えてみるといいと思います。

「つれなし」相手の態度がないことを示していて、「つらし」相手の態度そのものが気になってしまうことです。

いわば、「つれなし」「相手が平然としているなあ」ということで、「つらし」「相手の態度がありえない!」というイメージです。

ああ~。

トレンディドラマで、恋人がふてくされて、お相手が何か言わなきゃいけないような場面で、淡々と冷静に対応するのは「つれなし」で、「何ふてくされてんだよ、バーカバーカ」とか言っちゃうのが「つらし」という感じかな。

言いえて妙ですね。たしかにそんな感じです。

古文ではどちらかというと、「つれなし」客観的な状況描写にとどまることも多く、「つらし」相手の態度への不満の心情が含意されているケースが多いです。

不満のレベルとしては「つらし」のほうが上ですね。

すると、「つらし」は、「あたたかみがなくて思いやりが感じられない態度」に用いるわけだね。

たしかに、そういった態度は「痛みを感じさせる刺激物」のように受け止められるよね。

そうですね。

第一義的には「(自分に対する相手の)チクッと突き刺されるような冷淡で薄情な態度」を意味します。

そういった態度に対する「受け手の心情語」として用いる場合には、「たえがたい・苦痛だ」などと訳します。

「憂し(うし)」もけっこう似た意味だったような・・・

はい!

「憂し」も類義語ですね。

ただ、「憂し」は「む」と同根の語で、そもそも「いやになってしまう」ことを示します。

それに対して「つらし」は、「周囲(相手や環境)から自分へのチクチク刺さる態度」を示します。

どちらも似たような訳語になるのですが、しいて言えば、

「うし」のほうは、事の大小にかかわらず、「つらい・嫌だ」と感じた「自分側の状態」を意味することが多く、やや抽象的で、漠然とした落ち込みを示しやすい語です。

「つらし」のほうは、「周囲の対応が冷たい」という具体的な状態を示し、その副産物として、他者に対するうらめしい気持ちを示すことがある、というイメージです。

ほほう。

『蜻蛉日記』では、なかなか自分のところに来ない夫道兼への気持ちが、「つれなし」⇒「つらし」⇒「うし」と変化していくのですよ。

ああ~。

「つれなし」 薄情な態度ねえ・・・ (客観描写)

「つらし」  この態度ありえない! うらめしい! (不満がこもる)

「うし」   もはや兼家の態度には期待しないが、つらい (とにかく落ち込む)

という感じかな。

例文

いとはつらく見ゆれど、志はせむとす。(土佐日記)

(訳)(家が荒れていたので、留守番の人は)たいそう薄情に思えたけれど、(お礼の)贈り物はしようとする。

漏らさじとのたまひしかど、憂き名の隠れなかりければ、恥づかしう、苦しき目を見るにつけても、つらくなむ。(源氏物語)

(訳)漏らさないとおっしゃったが、つらいうわさは隠れなかったので、恥ずかしく、苦しい目に遭うにつけ、うらめしい【耐えがたい】