たまのをよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よわりもぞする
和歌 (百人一首89)
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの よわりもぞする
式子内親王 『新古今和歌集』
歌意
わが命よ、絶えてしまうのなら絶えてしまえ。このまま生き長らえているならば、堪え忍ぶ心が弱まると困るから。
作者
作者は「式子内親王」です。
お父さんは「後白河院」で、加茂神社の斎院をつとめました。
式子内親王は藤原定家と恋仲であったと言われています。
藤原定家というとそれこそ小倉百人一首を選んだ人ではないか。
どんな気持ちでこの89番を選んだんだろうね。
二人の恋の話は謡曲にもなっています。
定家のお父さんである藤原俊成が、あるとき定家の部屋でこの歌を見つけてしまったという話もありますね。
ポイント
玉の緒よ
「玉の緒」は、「命」の比喩表現です。
本来は「玉を貫く緒」のことですが、「魂を身体につないでおく緒」の意味で用いられています。
「絶え」「ながらへ」「よわり」は、「緒」の「縁語」です。
絶えなば絶えね
「絶えなば」は、下二段動詞「絶ゆ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の未然形+接続助詞「ば」です。「未然形+ば」なので、「順接の仮定条件」を示します。
「絶えね」は、「絶ゆ」+完了の助動詞「ぬ」の命令形です。
あわせると、「絶えてしまうならば絶えてしまえ」と言っていることになります。
ながらへば
下二段動詞「ながらふ」の未然形+接続助詞「ば」です。
未然形+「ば」は「仮定条件」を意味しますので、「命を長らえるならば」などと訳します。
忍ぶることの
動詞「しのぶ」の連体形「しのぶる」です。
「耐える」「堪える」の意味です。
よわりもぞする
係助詞「も」「ぞ」が重なると、「~すると困る」という意味になります。
ここでは、「がんばってこらえている恋心が表に出てしまっては困る」ということを言っていると解釈できます。