任を受けて(許可を得て)行く
意味
(1)おいとまする・退出申し上げる *高貴な人の屋敷などから
(2)おもむく・下る・出向く *主に都から地方へ
(3)参る *「行く」の謙譲語
(4)参ります・行きます *「行く」の丁寧語
「まかり○○」のかたちで
(5)○○させていただく・○○です・○○ます
ポイント
「任く(まく)」という動詞からきていることばだと考えられています。
「まかる」は、「任」を受ける側の行動であり、上位者から命じられて(あるいは許可されて)行くことを示します。
そのため状況的に、もとは「高貴な場所から去る」際の謙譲語として用いられました。「下る(都から離れる)」ことなども「まかる」と言いますね。
ただし、「去る・離れる」という「行為」そのものよりも、「お任せいただいて(お許しいただいて)動く」というニュアンスが中心にある語なので、「(目的地へ)行かせていただく」という感じで、「参る」「参ります」などと訳すことも多いです。この場合は、「行く」の謙譲語・丁寧語と考えられます。
平安時代以降は、どちらかというと、(3)(4)の意味で用いられることが多く、会話文で使用されやすいです。
「まかりありく」とか「まかりなる」とかの「まかり」もこれなの?
これです。
先に述べたように、「お任せいただいて(お許しいただいて)~する」という感じなので、現代語でいう「~させていただく」という表現に近いですね。
「まかりありく」なら、「歩きまわらせていただく」
「まかりなる」なら、「成らせていただく」
と訳すことができます。
短く言うなら、「歩き回ります」「なります」としてもOKです。
「まかる」に似たようなことばで「まかづ」っていうのもなかったっけ?
「まかる」に「出づ」がついて、「まかりいづ」と複合化したものが、やがて圧縮されて「まかづ」になったものです。
もともとは、「まかる」だけで「退出申し上げる」という意味で使うのですが、「お任せいただいて(お許しいただいて)移動する」という意味合いで、「参る」「参ります」と訳す用例が増えていきます。そのぶん、もともとの「退出申し上げる」の使用例が減っていくんですね。
その推移と並行して、「まかづ」という語が使われるようになっていきます。こちらは「出づ」という意味がくっついているぶんだけ、「退出申し上げる」「おいとまする」の意味が強いですね。ものなどを「下げる」という意味でも使いますが、いずれにしても「上位の場所」から「出る・出す」という意味になります。
逆から見れば、この「まかづ」が発生してきたことで、「まかる」という語から「出る(去る)」のニュアンスが薄れてきたという側面もあるでしょうね。
例文
かぐや姫の家には、「玉の枝取りになむまかる」と言はせて下りたまふに、(竹取物語)
(訳)かぐや姫の家には、「玉の枝を取りに出向く(下る)」と言わせて都をお離れになるので、
いづ方へかまかりぬる。いとをかしう、やうやうなりつるものを。(源氏物語)
(訳)(雀の子は)どこへ参りましたか。たいそうかわいらしく、だんだんなっていたのに。
萎えたる直垂、うちうちのままにてまかりたりしに、(徒然草)
(訳)古びてよれた直垂で、普段着のままで参上したところ、
妹のみまかりける時詠みける (古今和歌集)
(訳)恋人がこの世を去った【亡くなった】時に詠んだ(歌)
「身まかる」という連語になると、近親者が「世を去る」すなわち「亡くなる」という意味で用います。