てしがな / にしがな 終助詞

仮定法みたいな願望

意味

(1)【自己の希望・願望】~したいものだ

ポイント

助動詞「つ」「ぬ」に、願望を示す終助詞「しか」がついて、さらに、詠嘆を示す終助詞「な」がついたものだと言われています。

単純な希望(願望)というよりは、実現が困難なことや、普通に考えると不可能なことについて、「~したいものだなあ」と望む場合に用いられます。

ベースとなっている終助詞「しか」が、「願望(希望)」を示します。

「しか」は、過去の助動詞「き」の已然形「しか」がもとになっているという説もあれば、「き」の連体形「し」に、疑問や感動(詠嘆)を表す「か」がついたという説もあります。

もともと「過去」である助動詞が、どうして「希望・願望」になるんだろうね。

まず、已然形「しか」のほうの説で考えてみましょう。

「已然形」というものは、もともと「~であるけれど、……」「~すると、……」「~するので、……」というように、それ自体を「前提条件」とするような使われ方をしました。時代が経つと、実際に起きていないことを已然形で表すことで、「~が実現すると、(うれしい/悲しい)」といったように、時と条件の副詞節のような使い方もされました。

たとえば、「花咲きにしか、~」と言ったら、もともとは「花が咲いたのだが、~」という意味合いなのですが、文脈によっては、「花が咲いたとすると、~」という意味にもなったのですね。

「条件」として提示しているということは、その出来事や現象を望んでいるとも言えるもんな。

過去の助動詞「き」の連体形「し」に、疑問・感動・詠嘆としての「か」がついたという説で考えてみますと、「~たか?」「~たなあ」という意味になりますね。

「昨日、雨降ってなかったら、ピクニック行けかな?」
「そうだよね。行けよなあ

なんていう場合、「行きたかったなあ」という気持ちを含んでいますよね。

このように、「過去+疑問(感動・詠嘆)」という言い回しは「希望・願望」の感情を含み持っているケースが多いので、そのまま「希望・願望」として使われ始めたとも考えられます。

ああ~。

あと1点取ってたら、合格してたなあ。 (⇒合格したいものだ

腐っていなければ、食べられたなあ。 (⇒食べたいものだ

という感じかな。

「まあ、そんなところじゃないかなあ」という説ですね。

でもたしかに、英語の仮定法なんかも、

If I were a bird, I would fly to you。

であれば、「もしも私が鳥だったら、私はあなたの所へ飛んでいくのに」って訳すけど、要するに「飛んでいきたい」ってことだもんね。

そうですよね。

○○だったとすると
〇〇だったのになあ
〇〇だったらなあ

というのは、実質は「〇〇したいなあ」ということですよね。

こういうことで、「てしがな」「にしがな」も、もともとの語の構成要素としては「○○だったとすると」「〇〇だったよなあ」「〇〇だったかしら」ということですが、連語として使用されるうちに、「〇〇したいなあ」という「希望・願望」の意味合いで定着していったのだと思います。

そういう経緯だからこそ、「てしがな」「にしがな」は、シンプルな希望(願望)ではなくて、実現可能性が低いものを望む場合に使用されるのかもしれないね。

例文

さても候ひてしがなと思へど、おほやけごとどもありければ、え候はで、(伊勢物語)

(訳)(馬の頭は、惟喬親王に)そのままお仕え申し上げたいものだと思うが、朝廷の儀式の仕事などがあったので、お仕えすることができないで、

いかでこのかぐや姫を、得てしがな、見てしがな。(竹取物語)

(訳)なんとかしてこのかぐや姫を、手に入れたいものだなあ、結婚したいものだなあ

いかで、心として死にもにしがな。(蜻蛉日記)

(訳)なんとかして、思いどおりに死んでしまいたいものだ