「給ふ」と同じ
意味
(1)お与えになる・くださる
(2)お〜になる・〜なさる *補助動詞
ポイント
動詞「給ふ」が、「たうぶ」「たんぶ」を経て、「たぶ」と変化した語といわれます。
逆に「たぶ」から「たまふ」ができたという説もあります。
そのため、訳としては「たまふ」と同じと考えて大丈夫です。
「たまふ」よりは、ややくだけた表現とみなされたようで、主に会話で用いられました。
説話なんかで、何かをくださいってお願いする時に、「〜をたべ」っていう言い方をするよね。
命令形での使い方はけっこう出てきますね。
たとえば、「馬をたべ」だったら、偉い人に向かって「馬をください」ってお願いをしていることになりますね。
「賜ぶ」という尊敬語を知らないと、「馬を食べる」って訳しちゃうよね。
「賜ぶ」という動詞は、「くださる」という意味なので、あくまでも「主体者」は「与える側」です。そのため、命令形で用いる時の訳は「ください」が適切ですね。
ただですね、「たぶ」を下二段で使用すると、「もらう側」を行為者として表現していることになるのですね。その場合の「たぶ」は、「いただく」という謙譲語として機能することになります。
なんと!
「客体を高める謙譲語」というよりも、「主体を低める謙譲語」というイメージです。
そのうち、「高位の者が与える⇒下位の者がもらう」という関係ではなくて、「そこにある飲食物を食べる」という行為を丁寧にいう表現としても使用されました。その際は、ひらがなで書かれるか、「食ぶ」の字で用いられます。
辞書だと「賜ぶ」と「食ぶ」は別語ですが、「食ぶ」は「賜ぶ」から生まれたことになります。
「いただきます」ということか!
つまり、現代語の「食べる」ということばは、次のような変遷をしたことになります。
(a)もともとは、「くださる」という意味の「たぶ」(与える側を高める尊敬語)
(b)「たぶ」を下二段で使用すると、「もらう」という行為のほうに焦点があたり(つまり、「もらう側」を主体とする表現となり)、その「主体」を低める謙譲語として機能し、「いただく」という意味で用いられる。
(c)(b)の使い方は、主に飲食物をいただく際の表現だったので、やがて、「食ふ」「飲む」の謙譲表現として固定されていく。
(d)やがて、「与える⇒もらう」という運動がなくても、「たぶ」は「飲食物をいただく」という意味で用いられた。
(e)連体形「たべる」が終止形も担うようになり、現代にいたる。
例文
「娘をわれにたべ」とふし拝み、(竹取物語)
(訳)「娘を私にください」と伏し拝み、
上下の僧ども、そのあたりの山がつまで、物たび、尊きことのかぎりをつくして、(源氏物語)
(訳)(光源氏は、)身分が上、下の僧たち、そのあたりの山里にいる身分が低い者にまで、物をお与えになり、尊い行い【功徳】のかぎりをつくして、
「もし、金たまはぬものならば、かの衣の質、返したべ」(竹取物語)
(訳)もし、金をくださらないならば、あの衣の質【預け物】を、返してください」
御仏供の下ろしたべむと申すを、(枕草子)
([訳)仏へのお供え物のおさがりをいただこうと申し上げるのを、
この例文は、「下二段活用」になっていますので、「お与えになる」「くださる」という「尊敬語」ではなく、「もらう側」を主体とみなし、「いただく」と訳します。この場合は謙譲語の扱いです。
このような使い方の場合、主に「飲食物」をいただくことに用いることがほとんどだったので、「食ふ」「飲む」の謙譲語として扱われるようになりました。
ひらがなで書かれることが多いのですが、漢字をあてる場合、「食ぶ」になります。