次の傍線部を現代語訳せよ。
ふと心劣りとかするものは、男も女も、言葉の文字いやしう使ひたるこそ、よろづのことよりまさりてわろけれ。ただ文字一つに、あやしう、あてにもいやしうもなるは、いかなるにかあらむ。さるは、かう思ふ人、ことにすぐれてもあらじかし。いづれをよしあしと知るにかは。されど、人をば知らじ、ただ心地にさおぼゆるなり。
現代語訳
不意にがっかりするものは、男も女も、話し言葉(のひとつひとつ)を下品に使っていることが、どんなことにもましてよくない。ただ言葉遣い一つで、妙なことに(不思議なことに)、上品にも下品にもなるのは、どういうわけ(こと)であろうか。そうはいうものの、このように思う人【私自身】が、特にすぐれてもいないだろうよ。どれをよい悪いと判断するのだろうか。(そんな基準はないだろう)しかし、(他の)人(がどう思うか)はどうでもよく、ただ(自分の)気持ちとしてそのように【よいとか悪いとか】思われるのだ。
ポイント
あやし 形容詞(シク活用)
「あやしう」は、形容詞「あやし」の連用形ウ音便です。
目の前で起きていることが理解の範疇を外れており、「あや~」と発語してしまうような状況を示す形容詞です。
「不思議だ」「変だ」「奇妙だ」「おかしい」などと訳します。
あてなり 形容動詞(ナリ活用)
「あてに」は、形容動詞「貴なり」の連用形です。
「貴なり(あてなり)」は、「親しみのある高貴さ」を示すことばで、「高貴だ」「上品だ」などと訳します。
「貴」という漢字を用いることと、後ろに登場する「いやし」の対義語になることをおさえておきましょう。
ここでは「身分」の話をしているわけではなく、「言葉遣い」が話題なので、「上品」の意味でとるのがいいですね。
いやし 形容詞(シク活用)
「いやしう」は、形容詞「いやし」の連用形ウ音便です。
「卑し(賤し)」は、「身分が低い」「みすぼらしい」「下品だ」という意味の形容詞です。
先ほど登場した「あてなり」の対義語として理解しておくのがいいですね。
なる 動詞(ラ行四段活用)
「なる」は、動詞「なる」の連体形です。
古文の文中に、「なら」「なり」「なる」「なれ」といったひらがながある場合、主に次の4つのパターンがあります。
(1)断定の助動詞「なり」
(2)伝聞・推定の助動詞「なり」
(3)動詞「なる」
(4)形容動詞ナリ活用の活用語尾
このうち、「~になる」「~となる」といったような、現代語と同じ意味になるものは(3)の用法です。
ここでは、「上品にも下品にもなる」という意味であり、(3)の用法です。
いかなり 形容動詞(ナリ活用)
「いかなる」は、形容動詞「いかなり」の連体形です。
「いかなり」は、多くは次の3パターンで使用されます。
(1)「いかならむ」「いかなりけむ」「いかなるべし」といったように、推量系の助動詞とセットで用いる。
(2)連用形「いかに」を連用修飾語として用いる。
(3)連体形「いかなる」を連体修飾語として用いる。
ここでは、(3)の用法です。「いかなることにかあらむ」の「こと」が省略されていると考えましょう。「こと」は、たとえば「よし」など、文脈に合えばどんな体言でもいいです。
訳としては、「どのようなこと」「どのようなわけ」といったように、適当な体言を補えるといいですね。
なり 助動詞
「に」は、断定の助動詞「なり」の連用形です。
体言 + に + 助詞 + あり
という場合の「に」は、断定の助動詞「なり」の連用形と考えましょう。
か 係助詞
「か」は、係助詞です。
係助詞の「や」「か」は、注意点が2つあります。
(1)文中に「や」「か」があると、結びが「連体形」になる。
(2)「疑問」か「反語」の意味になる。
ここでは、文脈上「疑問」でいいですね。
む 助動詞
「む」は、助動詞です。
係助詞「か」があるので、係り結びの法則により、連体形になっています。
「文末用法」の助動詞「む」は、大雑把に分けると、
(1)一人称 ⇒ 意志
(2)二人称 ⇒ 適当・命令
(3)三人称 ⇒ 推量
となります。
ここでは、「推量」の意味ですね。