〈問〉次の傍線部を現代語訳せよ。
あづまぢの道の果てよりも、なほ奥つかたに生ひ出でたる人、いかばかりかはあやしかりけむを、いかに思ひはじめけることにか、「世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばや」と思ひつつ、つれづれなる昼間、宵居などに、姉、継母などやうの人々の、その物語、かの物語、光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらにいかでかおぼえ語らむ。
更級日記
現代語訳
東海道の道の果て(である常陸国)よりも、さらに奥のほう(である上総国)で育った人【私】は、どんなにか洗練されず田舎じみていただろうに、どういうわけで思い始めたのか、世の中に物語というものがあるというのを、どうにかして見たいと思い続けながら、することがなく退屈な昼間や、夜遅くまで起きている語らいのときなどに、姉や継母などのような人々が、その物語、あの物語、光源氏の様子など、ところどころ語るのを聞くと、ますます読みたい気持ちがつのるが、私の思いどおりに、(人々が)どうしてそらんじて話してくれようか、いや、話してはくれない。
ポイント
いとど 副詞
副詞「いと」を重ねた「いといと」が「いとど」になりました。
「いと」が「非常に・たいそう・とても」という意味であり、「いとど」はその極端さがさらに進むことを意味していますから、「ますます・いっそう」などと訳すことになります。
ゆかしさ 名詞
「ゆかしさ」は、動詞「ゆかし」を名詞として使用しているものです。
「ゆかし」は、対象に強い興味を持ち、心がそこに行きたがっているということで、「見たい・聞きたい・知りたい」など、文脈に合わせた訳をすることになります。
ここでは、『源氏物語』に対しての「ゆかしさ」なので、「読みたい」と訳すのが適切です。
「読みたさ」などと無理やり名詞化して訳すのは変なので、「読みたい気持ち」など、適切な体言を補って名詞句にしましょう。
まさる 動詞(ラ行四段活用)
「まさる」は「勝る・優る」と「増さる」の意味がありますが、ここでは「増さる」です。
「増える・多くなる」あるいは「強まる・つのる」などと訳します。
ここでは「つのる」と訳しました。
「つのる」は、「ますます激しくなる・こうじる」ということです。